yumekago

今日という日の先に

「2人で出かけりゃいいんじゃねェか」
「え?」

宇髄さんを放って同じようにおはぎを頬張っていた不死川さんが、お茶を啜りながら突然ポツリと呟いた言葉に顔を上げる。
湯呑を片手に持ったまま、不死川さんが言葉を続ける。

「能とか歌舞伎とか好きだろ、煉獄」
「⋯はい」
「普段なかなか行けねェだろうし、喜ぶんじゃねェか」
「ー⋯」
「物じゃなくたっていいだろ」

目から鱗が落ちる気分だった。
まさか不死川さんからそんな実用的で常識的で的確な意見がもらえるとは思ってもみなかった。

何か形に残るものをあげなきゃとばかり思っていたけれど、別に物じゃなくてもいいのか。

言われてみれば、常に戦いの場に身を置く鬼殺隊員に身に着けるものをあげるのは邪魔になってしまうように思うし、自宅を空けることも多いのだから物をあげても役に立たないように思う。

「⋯不死川さん、ありがとうございます!」

少しだけ苦手意識を振り払いながら、不死川さんに頭を下げる。
顔は怖いし雰囲気は刺々しいし言葉は乱暴だし行動も荒っぽいけど、意外に常識的な人なのかもしれない。

そう思ったのに。

「礼はいい。代わりにこれを悲鳴嶼さんとこに持ってけェ」
「え」

突如眼前に差し出された網に入った西瓜に視界を塞がれる。

「これは⋯」
「必ず悲鳴嶼さんに渡せェ」

西瓜から顔をずらして覗き込むように不死川さんを見れば、有無を言わせないと言わんばかりの開いた瞳孔がこちらを見据えていた。

「あの⋯」
「余計な詮索はするんじゃねェぞ」
「⋯⋯はい」

少しでもいい人だと思った自分が馬鹿だった。

地面に叩きつけたくなるほど重い西瓜を野を超え山を超え悲鳴嶼さんのところまで運んで、ようやく帰宅したのは夜も更けた頃だった。