背中合わせの恋煩い 第4章
目を覚ましたのは病院の寝台の上だった。
「っ⋯」
起き上がろうとして体を動かした瞬間、肋骨に鈍い痛みが走る。
諦めて大人しく布団に横になり、可能な範囲で視線を動かす。
周囲に自分が寝ているのと同じような寝台がいくつも並んでいるところを見ると、ここが病院である予想はつく。
どこの病院だ?
「やっと起きましたか」
「胡蝶」
思考を巡らせていたら部屋の入り口から声がし、顔を出したのは見知った同僚だった。
「ここは蝶屋敷か?」
「そうです」
「なぜ俺はここに?」
「なまえさんたっての希望です」
その名前にわずかに心臓が跳ねるのを感じる。
「なぜだ?なまえは何をしている?一緒にいた少年たちは無事か?」
「順に話しますから落ち着いてください」
煉獄さんらしくないですね、と胡蝶は呆れた顔をしながら窓を開けると、寝台の横にある椅子に腰掛ける。
「煉獄さんは猗窩座と戦った後そのまま意識を失って近くの病院に運ばれました。とても動かせる状態ではありませんでしたから」
「そうか」
「意識が戻らないままそこで半月ほど療養していたんですよ」
「半月も?俺はどれくらい寝ていたんだ?」
「一月です」
その言葉にしばし言葉を失う。
一月も目を覚まさないほどの傷を負っていたのか。
「容態が安定したので在宅治療に切り替えようとしましたが、なまえさんが此方で看てほしいと仰ったので承諾しました」
「⋯⋯⋯」
「鬼殺隊である以上優先するべきは任務ですから。自分がいない時に何かあってはいけないと」
「そうか⋯」
彼女が変わりなく過ごしていることに安堵する。
「竈門くんたちも皆無事です。もうとっくに回復してここを出ました」
「そうか、良かった」
「煉獄さんはまだ動ける状態ではありませんから、しばらくは治療に専念してください」
そう言うと胡蝶は立ち上がり部屋を出ていこうとしたが、ふと立ち止まり俺を見下ろす。
「なんだ?」
「⋯⋯⋯」
「?」
何故か睨みつけられているような気がする胡蝶の視線に首を傾げる。
「⋯何でもありません。さっさと治して家に帰ってください」
「わかった!」
「⋯ちっ」
忌々しげに舌打ちを落として、胡蝶は何故か息を荒くして部屋から出て行った。
「カー」
「お前も無事だったか」
開け放たれた窓から鎹鴉が入ってきて、枕元に降り立つとグリグリと頭を寄せてくる。
「心配かけたな」
「カー」
なんとか手を伸ばして頭を撫でてやれば、鴉は満足気に声を上げてそのまま枕元に座して目を閉じた。