今日という日の先に
食事を終えてお茶を飲みながら談笑して、気付けば夜もすっかり更けていた。
この時間が終わってしまうのは惜しいけれど、そんな我儘に煉獄さんを付き合わせるわけにはいかない。
「煉獄さん、お時間大丈夫ですか?」
「あぁ、もうこんな時間か」
「遅くまですみません」
立ち上がると居間の出入口の傍に置いてあった洋燈を手に取って灯りをつける。
それを片手で持ちながら、草履を履いて台所に降りる。
灯りを頼りに流し台の隅に隠すように置かれた包みを取ると、土間で足袋を履く煉獄さんに近寄る。
「煉獄さん」
「ん?」
「あの、これ良かったら食べてください」
抱きしめるように胸元で抱えていた包みをおずおずと煉獄さんに差し出した。
「これは?」
「スイートポテトというさつまいもを使ったお菓子です。
余ったお芋を使ったのであまり量はないんですけど、良かったら」
土間に座ったままこちらを仰ぎ見る煉獄さんの目は驚いたように見開かれている。
揺れる炎のような不思議な輝きを放つ瞳を見つめていると、自然と顔が緩む。
「お誕生日、おめでとうございます」
真っ直ぐに見つめられていることが何だかくすぐったいような恥ずかしいような気持ちがして、わずかに視線を落として続けた。
「煉獄さんが生まれてきてくれた日を一緒に過ごさせてもらえて、嬉しかったです」
あなたがこの世に生まれてきてくれたことが、色々なものを背負いながらも生きてきてくれたことが、何よりも嬉しくて。
そんなあなたに出会えたことも、こうして同じ時間を過ごせることも、全てが奇跡の連続で。
誰よりもお祝いしたかったはずなのに、きっと誰よりも幸せを感じた一日だった。
「ありがとうございます」
一年に一度しかない特別な日を一緒に過ごさせてくれたこと。
祝われるべき立場は煉獄さんなのに、まるで自分が主役になったかのように、すごく幸福な贈り物をもらった気持ちでいっぱいだった。
こんなに贅沢をしていいんだろうか、なんて思っていたら。
じっとこちらを見据えていた煉獄さんが小さく笑みを零したあと一度深く瞬きをして、おもむろに立ち上がる。
頭一つ高い位置にある煉獄さんを見上げると、どこか熱っぽい真剣な瞳と視線が交錯する。
初めて見るその表情に、心臓がドクンと鼓動する。