yumekago

今日という日の先に

なまえちゃん!いらっしゃい」
「すみません、突然」

恋柱邸へ着くと甘露寺さんが弾けるような笑顔で迎えてくれる。
人懐こい笑顔で抱きついてくる甘露寺さんと挨拶を交わして、私の手を引いて奥の部屋へ導く甘露寺さんについていく。

案内された客間の襖を開けた瞬間。

「あ」
「なんだ、お前か」

やや不機嫌そうな顔をした縞模様の羽織を着た男と目が合って、思わず声が漏れた。
言外に滲み出た邪魔者と言わんばかりの空気に少しだけ後退る。

「ちょうど伊黒さんとおやつ食べてたの!なまえちゃんも座って座って!」
「あ⋯、はい」
「それで、どうしたの?」

蜂蜜がたっぷりかけられたフワフワのパンケーキを頬張りながら、甘露寺さんが首を傾げる。
甘い香りの漂うお菓子と甘露寺さんの雰囲気は非常に調和が取れている。

甘露寺さんの言葉に、その隣に座した伊黒さんが実に冷ややかな視線を寄越しながら言い放つ。

「どうせ煉獄のことだろう」
「⋯⋯⋯」
「煉獄さんのこと?」

そんなにわかりやすいだろうか。

観念して素直に事情を話すと、冷めた目をした伊黒さんと対照的に、甘露寺さんは瞳を輝かせながら頬に手を当てる。
頬を染めてうっとりと瞳を輝かせる甘露寺さん。

「素敵ね、贈り物なんて!」
「甘露寺さんだったら何にしますか?」
「うーん⋯やっぱり好物かしら」
「好物⋯」
「好きな物たくさん食べてるときって幸せな気持ちになるでしょ?」

たくさんの程度はおそらく人のそれとは違うだろうけれど、確かに誕生日に好物を作るのは理にかなっている気がする。
と思ったところで、ハッと気付いた。

煉獄さんの好物は、なんというか非常に使い勝手の良い汎用的な食材で、おまけに良心的な価格で容易に入手できるもので、普段の食事にも気軽に使えるもので、⋯要するに普段から事あるごとに好物を作ってきたのだ。

もはや好物を作って食卓に並べることは、日常の食事風景と何ら変わらない。
それに気付いてがっくりと肩を落とす。

「⋯伊黒さんは、何かないですか?」
「俺に答えを求めるな」
「⋯⋯」

冷淡に答えた伊黒さんにやや非難めいた視線を送るが、甘露寺さんはハッと思いついたような顔をする。

「男性の意見の方が参考になるかもしれないわ!」
「甘露寺?」
「ね、伊黒さんは、何をもらったら嬉しい?」
「え」

無邪気な甘露寺さんに思いがけず助け舟を出された私は、便乗して伊黒さんを見る。
二人から視線を向けられた伊黒さんは、居心地が悪そうに居住いを正して少し視線を彷徨わせた後、目を反らしながら答える。

「甘露寺からもらえるなら、俺は何でも⋯」

それを聞いた甘露寺さんと私の反応は実に対極的だった。
「さすが伊黒さん、紳士的だわ!」と頬を染めて感動する甘露寺さんの隣で、私は実に冷めた目で伊黒さんを見て内心舌打ちをした。

何の参考にもならない。