今日という日の先に
「こんにちはー」
「はい!」
超屋敷の門を潜って玄関先でそう声をかけると、庭の方から少女が駆けてくる。
「胡蝶さんはご在宅ですか?」
「はい、ご案内いたします」
髪を2つに結んだ少女は凛々しい相貌で頭を下げて、キビキビとした所作で私を屋敷へ通すと主のいる部屋へと歩いていく。
襖を数回叩いて声をかけると、「どうぞ」と襖を開けてくれた。
「あら、なまえさん。いらっしゃい」
「突然ごめんなさい」
「ちょうど手が空いたところですから構いませんよ」
朗らかな様相で迎えてくれた胡蝶さんに安堵して、勧められた座布団へと腰を下ろす。
「それで、どうかしたんですか?」
「胡蝶さんに相談がありまして⋯」
「煉獄さんのことですか?」
「うっ」
にこやかな表情からは想像もつかない鋭い問いかけに言葉を詰まらせる。
図星をつかれた私を見て、胡蝶さんは「あらあら」と口に手を当てながら微笑む。
バレバレだったのは恥ずかしいが、それなら話は早い。
そう開き直ってコホンと咳払いをして居住いを正すと、正座した膝の上に握った手を置いて身を乗り出す。
「もうすぐ煉獄さんの誕生日なんですけど」
「なるほど、贈り物に困ってるんですね」
「あ⋯はい」
みなまで言わないうちに私が言おうとした言葉を引き継いだ胡蝶さんに動揺しつつ、頷いた。
「そうですねぇ⋯」
胡蝶さんは口元に手を添えてしばらく考え込むが、綺麗な顔が険しくなるだけで一向に言葉が出てこない。
しばらく考え込んでから、胡蝶さんは困ったように微笑んだ。
「思いつかないものですね」
「⋯ですよね⋯」
「男性に贈り物なんて、鬼に毒をあげるくらいしかありませんから」
「⋯⋯⋯」
「私よりも甘露寺さんに聞いた方がいいかもしれませんね」
「甘露寺さんに?」
「ええ、甘露寺さんは煉獄さんの元継子ですから」
なるほど、いいことを聞いた。
胡蝶さんの言葉に得心して大きく頷いた私に、胡蝶さんは柔らかく微笑みながら眉を下げる。
「役に立てなくてごめんなさい」
「いえ、とんでもないです」
申し訳なさそうに微笑む胡蝶さんにブンブンと首を振る。
甘露寺さんというヒントをもらえただけでも、手詰まり状態だった私にはありがたい。
そんな私を微笑みを浮かべながら見つめていた胡蝶さんが笑みを深めて言う。
「でも⋯煉獄さんならどんな物でも喜んでくれると思いますよ」
「⋯そうでしょうか?」
「ええ、なまえさんが考えて選んだものなら絶対に」
柔和な朗笑を浮かべてそう断言した胡蝶さんに、少し背中を押された気持ちになる。
感の鋭い胡蝶さんにそう言われると、そんな気がしてくるから不思議だ。
玄関先まで見送ってくれた胡蝶さんに深々とお辞儀をして蝶屋敷を後にすると、次の目的地を目指した。