TSUKI
遠くの森で梟の鳴く声が聞こえて、なまえは針仕事の手を休めてふと窓の外を眺めた。
窓を開けると夜風が流れ込むように頬を掠めていく。
半分ほど開けた窓から身体を乗り出すようにして見上げた先には、いつもと変わらない燦然と輝く見事な月が浮かんでいる。
「綺麗⋯」
漆黒の闇夜で静かに輝く月を見ると、いつも思い出す人がいる。
悲哀も絶望も孤独も重責もすべてその身体に背負って、それでも決して消えることのない希望と情熱をずっと心に灯し続けて。
何があろうと揺るぎない信念に真っ直ぐに突き進むその姿はいつだって眩しくて。
こんな不条理な世界の中で、唯一信じられる光だった。
きっとあなたは今も、誰かにとっての光で有り続けているんだろう。
どんなに離れてても、抱き締められなくても、もうその姿を見れなくても、願いはあの頃からずっと変わらない。
どうかあなたがいつも笑顔でいられるように。
願わくばその周りに、大切に思える人たちがいますように。
あなたが見上げた空の先に、流れる風の中に、いつも幸せがありますように。
温かくて静かな眼差しをしたあなたも、どこかでこの月を見上げているのだろうか。
その瞳に映る月が、どうか優しい光でありますように。
これからもずっと、あなたを温かく照らしてくれますように。
あの頃から変わらない願いを心に灯しながら今夜もまた、私は月を見上げている。