yumekago

「眩しっ⋯」

会社を出た途端に瞼に突き刺さってきた陽光に、思わず眉間に皺が寄る。

一日の始まりを告げる輝かしい朝陽。
普段ならば暖かく街を照らすその光に活力をもらっていたところだけれど、徹夜明けの今の身体で浴びるそれは、まるで生気を根こそぎ奪っていくようで実に不快だった。

陽光から逃げるように地下鉄の駅に滑り込むと、慣れたルートを辿って最短でホームに到着する。

帰宅時間を確認しようと思って取り出した携帯は持ち主より早く力尽きていたようで、電源ボタンを押しても画面は真っ暗なまま、うんともすんとも言わない。
ふぅ、と小さく息をついて携帯をカバンに放り込む。

新年度から異動になった部署は、忙しいことで有名なところだった。

毎日追われるように仕事を片付けても新しい仕事が次から次へと舞い込んできて、わからないことを誰かに聞こうにも手の空いている人などいるはずもなく、手探りでどうにか作業する日々。
残業はもちろんのこと、ときには休日も返上で働いて、ようやく少しずつ業務を覚えてきた。

新しい業務を覚えられることや人から頼られることは素直にありがたいと思うし、やりがいを感じる瞬間もある。
だけど慣れない業務に戸惑うことも多くて、心理的にも身体的にも疲労が蓄積されているのは否定できない。

もう少し慣れたら、規定の就業時間内で仕事を片付けられるようになるのだろうか。

重い身体を引きずるように地下鉄に乗り込んで、ほとんど人の乗っていない電車に揺られる。

人が少ないな、なんて思いながら反対車線の電車にも視線を投げる。
いかに勤労な社会人であっても、日が上ったばかりのこの時間帯に通勤するのはさすがに早すぎるのだろう。

カタンカタンと揺れる電車のリズムが心地良くてつい目を閉じてしまいそうになるけれど、ついこの間も電車で眠り込んで２往復もしてしまったことを思い出して、くっつきそうになる瞼を必死で堪える。

夜を徹した仕事が明けて電車に揺られて帰宅する朝から始まる休日を果たして休日と呼べるのかわからないけれど、それでも今日は２週間に渡る連続勤務でもぎ取った休日だ。
そんな貴重な一日を、電車で居眠りして過ごすなんてもったいなさすぎる。

眠気に耐えながら地下鉄を降りて、少し高くなった太陽に照らされながら帰路に就く。

犬の散歩やランニングをしている人々とすれ違うたびに自分の不健康さに居たたまれなくなって、疲れた足をできるだけ早く動かして家路を急いだ。

どうにかこうにか家に着いた時には、眠気と疲労はピークに達していた。

半分意識が飛びかけた頭でもたつきながら鍵を開けると、玄関マットに通勤カバンを投げ捨てる。
続けざまにジャケットを床に脱ぎ落とすと、着替えもせずベッドに飛び込んだ。