yumekago

ふつつかな愛ですが

そのまま泥のように眠って何時間経っていたのだろうか。
ふと目を開けると室内は薄暗くなっていて、太陽は西の空に沈みかけているところだった。

結局休日を無駄にしてしまったな、なんて思いながら身体を起こす。

意図せず寝間着にされた仕事着は皺ができていたけれど、かろうじてジャケットだけは脱ぎ捨てた数時間前の自分に少しだけ感謝した。

床に落ちていたジャケットを拾い上げてハンガーに掛けると、玄関マットに放置されたままの通勤カバンを持ち上げて携帯を取り出す。
当たり前だけれど電源はついていない。

カバンを片付けるついでに、携帯に充電器を差し込む。
長い間電池が切れていた携帯はまだ寝ぼけているのか、赤い充電ランプがついて空になった電池マークが画面に映されるだけでしばらく動きそうにない。

ふぅとため息をつくと、散らかったものを拾い上げながら洗い物を洗濯機に放り込む。
洗剤を入れてスイッチを押したところで、ふと洗面所の鏡に写った自分の酷い姿に気が付いて苦笑が込み上げた。

仕事着がシワクチャなのは言わずもがな、髪の毛はボサボサだし徹夜明けでただでさえよれていたメイクはほとんど落ちかけている。
せめてメイクだけでも落とせば良かったな、なんて反省したところでもう遅い。

色々な言い訳やら後悔やらが頭を巡ったけれど、ひとまずお風呂に入ろう。

ほとんど2日ぶりのお風呂は、疲れて固まった身体を解してくれる心地良さだった。
寒い季節ではないけれど、身体が芯から温められていくようでしみじみと有難みを感じる。

平日なら慌ただしくシャワーを浴びてカラスも驚くスピードで上がるところだけど、今日が休みで良かった。

こんな贅沢な時間、随分と久しぶりな気がする。

肩まで湯船に浸かって深く深呼吸すると、包み込むような温かさに眠気を誘われる。
あれだけ寝たというのに、容易く夢の世界へ落ちていきそうになる。

このまま眠れたら幸せだろうな、なんて願望がチラリと脳裏を過ぎるけれど、うっかり土左衛門にでもなったら事だ。

後ろ髪を引かれながらもお風呂を出て、部屋着に着替える。

濡れた髪を拭きながら部屋に戻れば、ようやく覚醒したらしい携帯がチカチカと点滅しているのが見えた。

仕事の連絡だったら嫌だな、なんて思いながら携帯を手にとって画面を点ける。

不承不承ロックを解除したものの、プライベートの連絡先しか入っていない電話アプリとメッセージアプリにそれぞれ通知マークが点いているのを見てホッと胸を撫で下ろす。

会社で使っているチャットやメールのアプリじゃなくて良かった。

そんなことを思いながら着信履歴を確認すると、昨日の夕方頃に1件と今日のお昼過ぎに1件、30分ほど前に1件、履歴が残っていた。

『煉獄杏寿郎』

画面に映し出された名前を見て、心臓が小さく跳ねる。

付き合い始めて5ヶ月ほどになる恋人。
正義感が強くて、誰に対しても優しくて温かい煉獄さんを好きになるのに時間はかからなくて、想いが通じ合ったときは本当に嬉しくて、恋人になって数ヶ月経った今ですら、恋仲になれたことが夢みたいだと思う。

それでもここ数週間はデートはもちろんのこと、電話やメールもあまり頻繁にできていなかった。
寂しいなんて思う暇すらないくらい、日々に忙殺されていた。

少しだけ紅潮した頬を抑えながら、煉獄さんに電話を折り返す前にメッセージの確認だけしておこうとアプリを開いた。

だけど、3件あったメッセージの送り主もすべて煉獄さんで、普段の彼に似つかわしくない量の連絡に思わず首を捻る。