背中合わせの恋煩い 第3章
鬼だ。両の目に刻まれた「上弦」と「参」の文字。
数字を見るまでもなく、その体から漏れ出る圧迫感とすさまじいほどの鬼気だけでそれがかなりの手練であることがわかる。
ードン!
何を思ったか、鬼が地面を揺らすと同時に横たわっている竈門少年に襲いかかる。
既の所で鬼の腕を斬るが、今まで戦っていた下弦の鬼とは比べ物にならない速度で回復していく。
「お前も鬼にならないか?」
「ならない」
猗窩座と名乗ったその鬼に名を呼ばれるたびに神経がザワザワと苛立つのを感じる。
なぜだろう。
鬼にならないかというくだらない誘いは言うまでもなく、鬼に力を認められることも、名を呼ばれることすらも言いようのない嫌悪感に襲われる。
「鬼にならないなら殺す」
そう言った瞬間、猗窩座は血鬼術を発動させ正面から向かってくる。
絶え間なく浴びせられる乱撃を剣で受け止めながら距離を詰める。
視界の端で竈門少年が動くのが見えた。
「動くな!傷が開いたら致命傷になるぞ!待機命令!」
大声でそう制すると竈門少年は体を震わせてその場に留まる。
「弱者に構うな杏寿郎!」
猗窩座がそう叫びながら術を繰り出してくるのが見えた。
ードォン!
技と技がぶつかり合い周囲に音が響く。
「っ!」
猗窩座の攻撃の大半は炎虎で防いだものの、受けきれなかった攻撃に気付くと同時に左目と腹部に鋭い痛みを感じる。
肋骨が折れたか。
風が吹き土煙が流れていく。
晴れていく右目の視界に映ったのは、崩れかけた右腕を抑える猗窩座の姿だった。