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背中合わせの恋煩い 第3章

途中藤の家で身体を休めながら、数日後には予定通り目的地へと辿り着いた。

切符を買い問題の汽車に乗り込むが、発車までまだ時間がある。
汽車の乗務員に声をかけ弁当を購入し箸を進めていたところに声をかけられる。

「あの⋯すみません」
「うまい!うまい!」
「れ、煉獄さん」
「うまい!」

名前を呼ばれて振り向けば、赤みがかった髪の少年が表情を強張らせてこちらを覗き込んでいた。

柱合会議の時に審議にかけられていたこの少年は見覚えがある。

隣にいる猪頭の少年と黄色い少年は彼の同僚だろうか。

「煉獄さんはヒノカミ神楽をご存知ですか?」
「うん?」

少年は隣の席に腰を下ろすと唐突にそう聞いてきた。

聞いた覚えのない言葉であることを告げると少年はわかりやすく戸惑っていたが、呼吸について話し込んでいるうちに車掌が切符の確認に回ってくるのが見えた。

虚ろな表情の車掌に違和感を覚えた瞬間、不意に体が軽くなったような感覚に襲われる。

「ん?」

ふと気が付けば、目の前には布団に横たわる父上がいた。

ああ、そうか。
柱になったことを報告しに来たのだった。

しかし父上は喜ぶことはおろか、振り向くことさえしなかった。

無気力な言葉を吐き続ける父上の姿を見ていられず、もう何度目になるかわからない割り切れない心苦しさに蓋をして、静かに立ち上がると父上の部屋を後にした。

「兄上⋯」
「千寿郎」

廊下の曲がり角でこちらを窺うように覗き込んでいる千寿郎に近寄ると、千寿郎はおずおずと父上の様子を尋ねてきた。

まだ幼い弟に真実を告げることは憚られたが、隠していても仕方のないことだと判断して、正直に父上の言葉を伝えた。
悲しそうに眉を下げる千寿郎に目線を合わせるためにしゃがみ込み、小さなその体を抱きしめる。

情熱を持ち、優しさと厳しさで熱心に指導してくれたかつての父上をいくら求めても、どうすることもできないことはわかっている。

目を見て話すことも、名前を呼ばれることも、もうない。

それでも千寿郎には前を向いていてほしいと思う。
父上に囚われることなく、信じた道をまっすぐに進んでほしいと思う。

「兄上!稽古をつけてください」
「うむ!」

止めどなく溢れていた涙を袖で拭って顔を上げた千寿郎の言葉に深く頷き、庭に下りて稽古を始めた。

そんなときだった。