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背中合わせの恋煩い 第3章

夢から醒めれば、すっかり様変わりした車内には眠り続ける一般の乗客。
車両の至るところで先程の少年たちと鬼の娘が戦っている気配がする。

鬼の体に斬撃を入れながら車両を移動し、それぞれに手短に指示を出す。

後方五両を回りながら鬼の体を刻み続ける。

人質が多く骨は折れるものの一撃自体に大した威力はなく、攻撃を薙ぎ払うのはそれほど難しいものではない。

数刻の後。

「ギャアアアア!」

耳を割くような断末魔が聞こえると同時に車体がグラリと大きく揺れ、まるで生きているかのようにのたうち回る。
それに合わせて、いまだ眠りから醒めない人々は揺られるがままに車内を転がる。

「まずいな」

制御不能となった列車は軌道を外れ、車体全体が大きく傾く。
衝撃を吸収するべく技を繰り出しながら、前方車両にいる少年と少女のもとへ向かう。

「黄色い少年!竈門妹!近くの人間を守れ!」
「えっ、は、はい!」

ーガガガッ!

そう指示を出したところで車両が横転し、車体が地面を擦る振動と衝撃音が足元から伝わってきた。

「っ!」
「え、ちょ⋯死⋯ァァアア!」

ードォォン⋯

ようやく収まった衝撃に身を起こし車両から這い出れば、車両の外には幼子を抱えながら転がっている黄色い少年と竈門妹がいる。
気配を探る限り、乗客もみな命があるようだ。

「よくやったな」

意識を失って倒れている黄色い少年と竈門妹の頭を撫で、先頭車両にいるであろう竈門少年と猪頭少年の様子を見に行く。

「早く出やがれこの野郎!」
「うう⋯」

猪頭少年は無傷なようで、車両に押し潰されている車掌を助けるべく車体に体当たりをしている。

竈門少年を探すと、腹に傷を負ったのだろうか、血を流しながら地面に横たわっている姿が見える。
深手ではあるが、意識も呼吸もある。

「全集中の常中ができるようだな!感心感心!」

そう言って顔を覗き込めば荒い呼吸を繰り返す竈門少年が目を開ける。
その額に指を当て、止血させる。

まだ荒削りではあるものの、この歳できちんと呼吸を使いこなせているのはたいしたものだ。

「怪我人は大勢だが命に別状はない。君はもう無理せず⋯」

ードォン!

そう言いかけたところで、不意に背後から禍々しい気を感じ振り返る。