背中合わせの恋煩い 第2章
それからの日々は、ただ機械のように無感情に家事と仕事をこなすだけの繰り返しだった。
かろうじて笑顔を浮かべることはできていたと思うけれど、そこに感情は不要だった。
むしろ感情を呼び覚ますことが怖かった。
呵責に苛まれすぎた心は疲れ切っていて、さらなる罪悪感や嫌悪感によって心が折れてしまうことから本能的に自己防衛していたのかもしれない。
生きている価値などないに等しいというのに。
「明日から暫く出かけることになった」
庭で洗濯物を取り込んでいた私の元に来た煉獄さんが唐突にそう言い出したのは、そんな日々が半月も過ぎた頃だった。
「送り出した隊士が続けて行方不明になっているそうだ」
「十二鬼月でしょうか」
「その可能性は高い。なので俺が行くことにした」
「そうですか⋯」
どことなく漂う不穏な空気に思わず眉をひそめる。
「明日の早朝に発つ」
「わかりました」
手短に答えると、取り込んだ洗濯物から煉獄さんの衣服を取り出して旅路の荷を揃えることに専念した。
翌朝、ようやく東の空が薄く白みはじめた刻に、まとめた荷を手に持って玄関先で煉獄さんを待つ。
少しして身支度を終えた煉獄さんが奥から出てくる。
「朝早くからすまない」
「いいえ」
軽く頭を振って、抱えていた荷を煉獄さんに手渡す。
「ありがとう!助かった」
「お気を付けて」
「うむ!不在の間の留守は頼んだ」
「はい」
「なにかあったら鴉で知らせてくれ」
「わかりました」
「ー⋯」
顔を上げることなく事務的な会話を一通りしていたら、ふと言葉が途切れた。
「?」
沈黙を続ける煉獄さんに思わず顔を上げてしまった。
「っ⋯」
私を見下ろす煉獄さんと目が合った瞬間、ここ半月ほどまともに煉獄さんと目を合わせていなかったことを思い出した。
意識的に避けていた。
煉獄さんの顔を見たら、どうしようもない思慕と懺悔で自分を保てなくなるとわかっていたから。
視線が交わると煉獄さんは納得したような顔をして頷いた。
ースッ
「っ!」
不意に伸びてきた煉獄さんの手に、思わず身を固く縮めて目を瞑ってしまう。
けれど、その手は悪意も害意も持たず、俯いて下を向いた頭にポンポンと優しく降ってきた。
「では、行ってくる!」
「っ、どうか⋯ご無事で⋯」
歩き出した煉獄さんに向かって言葉に詰まりながらもかろうじてそう言えば、煉獄さんは振り向いて微笑んでくれた。
その姿にまた、消し去ったはずの感情が熱を帯びて込み上がってくる。
どうか、ご無事で。
太陽のような髪を揺らしながら歩くその後ろ姿を、ただ無事だけを祈りながら見つめていた。
しかし
煉獄さんが重傷を負って運ばれたという知らせを受けたのは、その半月後のことだった。