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背中合わせの恋煩い 第2章

「美味しいねー」

山のように積み上げられた甘味をまるでわんこそばでも食べるかのようにヒョイヒョイと食べていく甘露寺さんを、胡蝶さんはニコニコと、私は呆然としながら眺めていた。

「甘露寺さんの食欲、なまえさんは知らなかったんですね」
「はい⋯見事ですね」
「えっ、今日はまだ抑えてるんだけどな⋯」
「ふふ」

他愛ない会話をしながら甘味を味わう。
本来は些細なことのはずなのに、どことなく非日常感が漂うのは職業柄なのだろうか。

「ところで、新婚生活はどう?」
「っ!」

突然の無邪気な質問に、啜っていたほうじ茶が変なところに詰まった。

「大丈夫?」
「ゴホッ⋯、⋯だ、だいじょうぶ、です⋯」
「ちょっと唐突でしたね」

トントンと胸を叩いて胡蝶さんに差し出された水を口に含む。

「ごめんねー」
「いえ⋯」
「で、どうなんですか?」
「胡蝶さんまで⋯」

両隣をガッチリと陣取られて、興味津々な二人の目が私を覗き込んでくる。

「⋯煉獄さんは優しくて⋯大事にしてくださいます。とても、感謝してるんです」
「うんうん」
「けど⋯⋯」
「けど?」

「煉獄さんは⋯これで良かったんでしょうか⋯」
「え⋯」

私の言葉に、胡蝶さんは小さく息をついて、甘露寺さんは心配そうに眉を下げる。

「⋯他にもっと⋯いい人がいたんじゃないかって⋯」

誰にも言えなかった言葉が溢れ落ちて、思わず目を伏せた。

「それはなまえさんも同じでしょう?」
「えっ」
「もしかしたら将来もっと素敵な人と出会うかもしれないなんて、そんな未来のことを考えだしたらキリがありません」
「⋯はい⋯」
「そうそう!それに煉獄さんは嘘をつけない人だし、その煉獄さんがなまえちゃんと結婚を決めたならそれが煉獄さんの気持ちじゃないかな」
「私もそう思います」

優しい瞳で「ね?」と微笑む二人に、小さく頷く。

「煉獄さんは他人を優先する人だけど、だからって自分の気持ちを曲げたりはしないよ!」
「そうですね」

甘露寺さんの言葉に納得しかけたものの、ふと胸の中にある疑問が湧いた。

「甘露寺さんは⋯」
「うん?」
「煉獄さんと以前お付き合いをしていたんですか?」
「ぶっ!」

私の問いに、甘露寺さんが口に含んだお茶を盛大に吹き出し、胡蝶さんは笑いを堪えきれないといった具合で横を向いて肩を震わせている。

「すみません、不躾に⋯。煉獄さんをよく知っていらっしゃるようだったので⋯」
「それは私が煉獄さんの継子だったからだよー」
「えっ」
「継子としての役目が果たせそうになくて独立しちゃったんだけど」
「そうだったんですか⋯」
「だから、他の柱よりは煉獄さんのこと知ってるかな。でもそれだけだよ」

安心してねと言わんばかりに他意のない笑顔を向けられて、浅はかな思考をしてしまった自分が恥ずかしくなる。

「すみません、変な誤解を⋯」
「ううん、気にしないで!恋する乙女なら心配になるよね」

煉獄さんは言うまでもないけれど、甘露寺さんも胡蝶さんも、鬼殺隊は本当に優しい人ばかりだ。
同じにはなれなくても、せめて少しでも近付けるように努力したいと思わせてくれる人ばかりだ。

「お二人と話したら、なんだかスッキリしました!」
「ほんと?良かった!」
「ふふっ」

三人で顔を寄せて微笑み合って、再び甘味を食べ始めた。