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背中合わせの恋煩い 第2章

なまえちゃん、おめでとう!」
「おめでとうございます」

柱を退いたのだから柱合会議には出ない心づもりだったが、お館様から「皆も挨拶をしたいだろうし、最後と思って出席してほしい」と連絡をいただいた。

恐る恐る屋敷の門を潜り中庭を覗くと、すでに到着して庭の真ん中で談笑していた甘露寺さんと胡蝶さんが私に気付いて満面の笑みで駆け寄ってきた。

「ありがとう、ございます」

二人に笑顔を返すと、甘露寺さんと胡蝶さんは顔を見合わせて微笑んだ。

「聞いたときは驚いたけど、好きな人と結ばれて本当に良かったね!」
「ええ、本当に」
「えっ」

思いもよらなかったその言葉に思わず声を上げてしまった私を、二人は少し驚いたような顔をする。

「ん?」
「どうかしましたか?」
「あの⋯私が、⋯煉獄さんを⋯好きって⋯」
「違うの?」

甘露寺さんの問いにブンブンと首を左右に振るも、頭の中は戸惑いでいっぱいだ。

「もしかして、バレてないと⋯?」
「⋯はい」
「⋯⋯」

胡蝶さんの問いかけに小さく返事をして頷くと、二人は呆気にとられたような顔をしてまじまじと私を見た。

「⋯結構、わかりやすかったと思いますよ」
「うん⋯あっ!で、でもほら!同じ女性だからわかったのかもしれないし!」
「そうですね、鈍い人は絶対気付いてないと思いますよ。冨岡さんとか」
「うんうん!」

甘露寺さんの言葉に胡蝶さんも深く頷き、顔を染めて俯いてしまった私を二人して励ましてくれる。

「ね、二人は柱合会議の後予定ある?」

恥ずかしさのあまり熱を持った頬を手で抑えて冷やしていたら、甘露寺さんがニコニコと笑いながらそう聞いてきた。

「特にないですよ」
「私もありません」
「それなら、柱合会議終わったら甘味処行かない?」
「いいですね」
「行きたいです!」

突然のお誘いだったけれど、甘味は好きだし、女性同士での気兼ねないおしゃべりはいい気分転換になると思って、思わず顔を輝かせて返事してしまった。
甘露寺さんも嬉しそうに頷いて「じゃあ決まりね」と三人で微笑み合ったところで、柱合会議の始まりを知らせる合図がした。

柱合会議が終わった後、帰り支度を整えてから煉獄さんにそっと声をかける。

「煉獄さん、あの⋯この後、胡蝶さんと甘露寺さんと甘味処へ行きたいのですが⋯」

私の言葉に、煉獄さんが少しポカンとした顔をする。

「?いいじゃないか!どうして断りを入れる必要があるんだ?」
「帰宅するのが遅くなってしまいますので⋯一応、その⋯」
「気にする必要はない。好きなことをしてもらって構わないと言っただろう?」
「は、い⋯」

大きな手で頭をポンポンと撫でられて、髪の毛の間からそっと見上げた先にはいつもの笑顔の煉獄さんがいる。

それに少し頬を染めていたとき。

「派手にイチャついてんなァ」
「う、宇髄さん!」
「お前らが結婚したと聞いたときはビビったが、案外いい感じじゃねェか」

宇髄さんの言葉に戸惑う。

毎日良心の呵責に苦しむこの関係が、傍目にはそう見えるのだろうか。

「煉獄!俺らも飯食いに行こうぜ」
「ん?」
「嫁さん帰ってくるの遅いなら別にいいだろ?な、みょうじ
「えっ、あ、はい!大丈夫です」
「決まりだな」

そう言うと宇髄さんは煉獄さんの肩に手を回したままズルズルと煉獄さんを引っ張って行った。

なまえちゃん、私たちも行こ!」
「はい!」

甘露寺さんに手を引っ張られながらチラリと煉獄さんを見ると、目が合った煉獄さんがニコッと笑って手を振ってくれた。

その仕草にまたキュッと震えた胸を抑えて、甘露寺さんと胡蝶さんの後を追いかけた。