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まちがいさがし 第7章

鼻をすする俺を弥勒が下から覗き込んでくる。

「大丈夫?」
「あァ」

心配そうな弥勒に頷きを返したものの、このままここにいると身体が冷える。
俺はともかくこいつに風邪をひかせるのは忍びないし、第一そんなことになったらなまえに合わせる顔がない。

「弥勒、傘買ってやるから家帰れ」
「えっ」
「ここにいたら風邪ひいちまう」
「兄ちゃんは?」
「俺はどうにでもなるから心配すんな」

そう言うと、入り口付近に置かれていた傘を一本取ってレジに持っていく。
会計を終えた傘を包んでいた袋をその場で剥がしてもらい、真新しい傘を弥勒に差し出した。

「ほら」
「でも」
「いいから帰れ。ちゃんと身体拭けよ」

半ば強引に傘を弥勒に押し付けると、背中を押してコンビニから帰るよう促す。

しかし、足に力を入れてコンビニから出まいと踏ん張っていた弥勒が何かを思いついたように顔を上げて含みのある笑顔で振り向いて言った。

「⋯兄ちゃんも一緒に帰ろう!」
「は?」
「俺んち!すぐそこだから」
「いや、でも」
「このままじゃ兄ちゃんも風邪ひいちゃうよ」
「知らない人を上げるなって母ちゃんに言われてんだろ?俺はいいから」
「友達だから!実弥はもう友達だから!」
「は?」
「たくさん遊んだし、実弥のことも色々知ってる!友達だよ」

ニッと笑ってそう言うと、弥勒は俺の手を引いてコンビニを出る。
土砂降りの雨を見上げながら買ったばかりの傘を開くと、それを俺に手渡して屈託のない顔で笑う。

「傘は実弥が持って」
「え、おい」
「行こ!」

俺の反応をまるで無視して、弥勒は手を引いて歩き出す。

この押しの強さは何なんだと思ったが、自分に心当たりがありすぎて口を噤んだ。