まちがいさがし 第7章
なまえとここへ旅行に来たのは夏だった。
観光名所もあって人も多く、身体を寄せ合いながら歩いた当時を思い出す。
関係がバレるわけにはいかなかったから、地元では昼間から一緒に出歩いたり手を繋いだりなんてことできなかったけど、ここでは別だった。
額を合わせながら笑い合って、人目も気にせずなまえを抱き寄せて、それは普通の恋人同士と変わりなくて、ただ幸せで、そんな日がこれからも続くんだと思っていた。
だけどあの時なまえは、教師を辞めることも、あの町から去ることも、一人で生きていくことも覚悟していたのか。
誰よりも近い場所で隣を歩いていたと思っていたのに、全然気付かなかった。
気付かせてももらえなかった。
思い出と懺悔に浸りながら、ソヨソヨと頬を撫でる風が心地よくて目を瞑ってウトウトしてた時だった。
「あれー?誰もいないじゃん⋯」
公園の入り口から子どもの声がして、思わず身体を起こしてそちらに目を向けた。
その姿を捉えた瞬間、息を呑んだ。
玄弥の写真に写っていた、あの子どもだ。
「おかしーなァ⋯」
勢いよく飛び起きて、ボールを抱えてぶつくさ言いながら公園に入ってきた子どもを凝視していた。
ら、視線を感じた子どもがこちらを振り返る。
「ん?」
ああ、本当によく似ている。
髪の色や瞳の色こそ違うけれど、目の形も鼻筋も口元も髪の癖も小さい頃の自分そのものだった。
アルバムの中から出てきたような、遠い日の幼い自分そのものだ。
「⋯お兄さん一人?」
数秒の沈黙の後、子どもが口を開いてそう尋ねてきた。
この歳の子どもなら、大抵は怯えて逃げ出すか泣き出すかだというのに、目の前の俺に瓜二つな子どもは他の大人に話しかけるのと変わらない口ぶりだ。
それに多少面食らいながらも、短く言葉を返す。
「あァ」
「ふーん⋯ここに来れば誰かいると思ったんだけどなァ⋯」
「⋯俺が遊んでやろォか?」
「えっ」
不満気な顔で唇を尖らせる子どもに、考えるよりも先に言葉が出た。
台詞と表情を切り取ればただの不審者そのものなのだが、目の前の子どもは嬉しそうに顔を輝かせる。
「うん!じゃあサッカーやろう!」
「お前、名前は?」
「弥勒!」
「弥勒⋯」
「今ボール取る練習してんだ!兄ちゃんがボール守る側な」
「わかった」
弥勒は臆することなくテキパキと指示を出すと俺にボールを渡して距離を取る。
俺を見上げてニッと笑うと、真っ直ぐに突っ込んでくる。
ボールを堅守する俺になんの躊躇もなく飛び込んでくる弥勒は、怖いもの知らずだった小さい頃の俺そのままだ。