yumekago

傷下の秘め事

「また怪我したのか」

深夜に帰宅してきた不死川実弥は居間で夜食をつまんでいる私を見ると、呆れたような顔をしてそう言った。

「うん?」
「ほら、デコんとこ」
「んー?」

少しだけ不機嫌を滲ませた実弥の表情と言葉を受け流そうと返事とも言えない言葉で濁そうとしたのに、箸を止めない私の元に近づいてきた実弥は額にかかる前髪を上げて再びそう指摘する。
髪で傷は見えにくくなっていたはずなのに、よく気付いたものだ。

粗野で人の機微に無頓着に見えるその外見には似つかわしくない。
その証拠に今だって、無遠慮に息がかかるほどの至近距離に顔を寄せられて、身をわずかに固くしているこちらの心情など知る由もないのだろう。

「⋯別に痛くないし」
「そういう問題じゃねェだろ」
「それに、鬼殺隊にいれば怪我なんて日常茶飯事じゃない」
「だとしても、お前は怪我しすぎだ」
「⋯⋯」
「大体お前は普段から怪我が多いんだよ」
「⋯⋯⋯」

このまま会話を続けていたら、実弥の重箱の隅を突くようなお説教を執拗に受けることになる。

そう察知した私は、箸を動かす速度を上げてあっという間に食事を片付けると席を立つ。
制止しようと声をかけてくる実弥を無視して流しに食器を置くと、一度だけ実弥を振り返った。

「実弥の食事は台所にあるからごゆっくり!」
「あ、おい!」
「私お風呂入るから!」
なまえ!」

不満気な声で名前を呼ぶ実弥をそこへ残して、そそくさと居間から走り去って浴室へ向かった。

心配してくれるのはありがたいし、実弥の気持ちだってわかる。
女なんだから顔に一生残るような傷が残ったら大変だと、純粋に気遣ってくれているのだろう。

言い方は乱暴だけど。

ぶっきらぼうな物言いの彼を思い返しながら、自然と笑みが溢れた。