yumekago

まちがいさがし 第7章

「足だけじゃなくて身体を使えェ」
「くそっ!あー!」
「取ったからって油断してっとすぐ取られるぞォ」
「あー!」

我武者羅に飛びかかってくる小さい身体を避けながらボールを守り、時折激を飛ばす。
気付けば小一時間近く弥勒と遊んでいた。

「はぁ⋯はぁ⋯」
「休憩するか。何か飲むかァ?」
「炭酸飲みたい!」
「ほらよ」

自販機の横のベンチに並んで座って、買ったばかりの缶を開ける。

「うまい!」
「うまいかァ?炭酸なんざ」
「母ちゃんがあんまり飲むなって言うから飲めないんだ」

不意に飛び出たその言葉にピクリと反応する。

「どんな母ちゃんなんだ?」
「怒ると怖い!けど優しいよ。ご飯も美味しいし、いつも大好きって言ってくれるんだ」
「⋯父ちゃんは?」
「いない。生まれたときからずっといない」
「そーか⋯」

弥勒は実にあっけらかんとした口調でそう言ってのける。
もう確信しかないが、念の為に聞いておきたい。

「⋯弥勒、上の名前は?」
みょうじ
「母ちゃんの名前は?」
なまえ!」

ああ、やっぱり。

疑念が確信に変わった瞬間に、身体の力が抜けた。
深い息を吐いて項垂れるように頭を抱え込んだ俺に、弥勒は慌てたように声をかける。

「兄ちゃん?どうしたんだ?大丈夫か?」
「あァ⋯」
「具合悪いのか?どこか痛いのか?」
「いや、そうじゃねェ」

ゆっくりと頭を擡げて、困ったように右往左往している弥勒の頭に手を乗せてポンポンと撫でる。