まちがいさがし 第5章
なまえがいなくなったことを知ったのは夏休みが明けた新学期だった。
長期休みが明けて、まだ休みの感覚が抜けない気怠さが漂う朝の教室で、のそのそと教壇に立った担任が開口一番に言った。
「突然だが、副担任だったみょうじ先生が学校を辞められた」
は⋯?
思いも寄らない現実に思考が停止する。
「えー!なんで?」
「どうして?」
「詳しいことはわからないが⋯」
「お別れ会は?」
「もう会えないの?」
なまえを慕っていた生徒達を筆頭に口々に担任に詰め寄るが、俺の耳にはそんな雑音は全く届いていなかった。
ーガタッ
「不死川!」
椅子を倒しながら席を立ち、そのままの勢いで教室から飛び出して上履きのままひたすらなまえのアパートへ走った。
学校を辞めた?
あれほど教師の仕事を好きだと言っていたなまえが?
なにがあった?
辞めたのは学校だけだろう?
なまえ
なまえ
最後に会ったのは一週間前だ。
そろそろ本腰入れて受験勉強しないとねと言われて、じゃあ今のうちに旅行したいと我儘を言った俺に困ったような顔で笑って、俺が行きたいと言った観光地に遊びに行った。
レトロな雰囲気の町を二人で並んで歩きながら、途中立ち寄った店で軽食を買って分け合って食べながら、ベタな観光スポットを巡りながら、「楽しいね」となまえは嬉しそうに顔を綻ばせていた。
普段は距離を保ちながら歩くだけが精々で、人の目がある場所で手を繋いだり顔を寄せ合ったりすることなんてなかったから、そんな風に堂々と外を歩けることが本当に楽しくて。
ガキみたいにはしゃいで。
帰宅の道中、名残惜しい気持ちに捕らわれていた俺を察して、別れ際に珍しくなまえからキスをしてくれた。
突然のことにポカンとした俺を見てクスクス笑いながら「じゃあね」って言ってなまえは帰って行った。
旅行から帰ってからは、大量に残っていた玄弥達の夏休みの宿題を終わらせるために家に籠もっていて、それでももうすぐ休みが明けたらまた毎日会えるからと自分に言い聞かせていたのに。