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まちがいさがし 第6章

死んだように時間を浪費してどのくらいの年月が経ったのか。
俺は教師になり、玄弥は高校生になっていて、あの頃とは少しずつ世界は変わり始めているように思えるけれど、それでも空虚な心は相変わらず俺を蝕んでいた。

「兄ちゃん!これ見てくれよ!」
「あァ?」

高校に入学し射撃部に入った玄弥が合宿から帰ってくるなり、着替えもそこそこに駆け寄ってくる。

騒々しい様相に呆れた視線を投げかけるも、当の玄弥はまるで宝物を見つけたかのようにやや自慢気な色を浮かべて携帯を差し出してきた。
こういうところは昔から本当に変わらないなと思う。

「何だァ?」
「いいから見てくれよ」

興奮気味に詰め寄ってくる玄弥から少し距離を取る。
嬉々とした様子の玄弥を不審な顔で見返すが、玄弥は鼻息荒く携帯を見ろと繰り返す。

「何だってー⋯」

押し切られる形で受け取った携帯の画面を脳が認識した瞬間、息が止まった。

そこに写っていたのは。

「兄ちゃんの小さい頃にそっくりだろ?」
「ー⋯」

俺とよく似た風貌の、幼稚園くらいの小さな子どもだった。
猫のような目も、ツンツンとした髪も、薄い唇も、確かに玄弥の言う通り小さい頃の俺そのものだった。

奇跡的に色褪せずに残った昔の写真でも見ているかのような懐かしさが込み上げてくる。
目が離せない。

「⋯確かに似てるな⋯」

思わず独り言のように言葉が溢れた。

「だろ?懐かしくてつい声かけちゃって」
「⋯通報されるぞ」
「たまたま通りかかった公園で見つけてさ、それで⋯」

共感を得たことに気を良くしたのか、饒舌にそのときの状況を語りだす玄弥の話を聞き流す。
最早、俺の意識は写真に写った子どもに注がれていた。

似ている。

他人の空似か?
それだとしても、ここまで似るものなのか?

似ているのは、姿形だけじゃない。
意思の強そうな瞳も、少し生意気そうな笑い方も、身体を大きく見せようと精一杯胸を張っている佇まいも、まるでかつての自分そのものだ。

この胸騒ぎはなんだ?

ただの空似という可能性の方が高いのに、なぜかその写真から目が離せない。

喋り続ける玄弥を無視して、壁にかけられたカレンダーに駆け寄る。
家族の予定が書き込まれているそこには玄弥の合宿先も書かれていて、逸る気持ちを抑えて文字に視線を走らせる。

「ー⋯」

食い入るように見つめたそこに、鮮明に記憶に残る町の名前が書かれていた。
甘い記憶が蘇る、だからこそ思い出さないようにしていた町。

突如もたらされた事実が点となり、胸が粟立つような感覚に陥る。
フルスピードで回転する思考から浮かび上がったある可能性に、鼓動が大きく跳ねた。

まさか。

いや、でも。

埒のあかない堂々巡りを脳内で繰り返して、すぐにでも動き出そうとする身体を無理やり抑えた。

確かめてからでも遅くない。
そう言い聞かせて。