つめたい指先
「本当にお好きなんですね」
少し強引に話を戻しながらそう言えば、煉獄さんはわずかに要領を得ないといった顔で首を傾げる。
「さつまいものことです」
「⋯あぁ!」
私の言葉に煉獄さんは得心したように頷いて笑顔を見せる。
さつまいもの話ばかりしていたら、なんだか煉獄さんの燃えるような髪と瞳までさつまいもの色を映しているように見えてくる。
まさか、さつまいもの食べすぎでこうなったのだろうか。
そんな失礼な考えが脳裏を過ぎったが、突拍子もない思考にわずかに気まずさを覚えて視線を逸らした。
「⋯そうか⋯、好き、だな」
噛み締めるように静かな口調で、煉獄さんが不意にポツリと呟いた。
普段の溌溂としたそれとは異なる語り口に違和感を覚えて、ほとんど無意識に顔を上げて煉獄さんを仰ぎ見る。
煉獄さんの視線は夜空に浮かぶ満月ではなく、真っ直ぐにこちらに向けられていて。
予想外に真剣なその眼差しに、ドクンと心臓が跳ねる。
鬼を狩るときの射抜くような鬼気迫る瞳とも、稽古をつけてくれるときの厳たる瞳とも、焼きいもを食べているときの少年のように輝く瞳とも違う。
この瞳は、一体何を宿しているのだろう。
「ーぁ⋯」
逸らすことすら許されないようなその瞳に返す言葉が見つからなくて、小さく開いた口から零れたのは返事とも言えないような頼りない微かな呟きだけ。
とても軽口で茶化せるような雰囲気ではなくて、何か言わないとと思えば思うほど言葉は見つからなくて、思考が混乱する。
こんな時にどうしたらいいのか、私にはわからない。
どうしよう。
視線を外したり言葉を発したりする時機も完全に逃してしまった。
どうすることもできなくて一人混乱していたら。
私の動揺を察したのか、不意に煉獄さんが肩の力を抜くようにフッと微笑んだ。
何度か見たことのある穏やかなその微笑につられるように、わずかに緊張が解ける。
無意識に止めていた呼吸がようやく再開されて、小さく息をついた。
「焼きいもも捨てがたいが、一番美味いのはやはり味噌汁だな!」
突然いつもの声量で朗らかにそう断言した煉獄さんに驚いて、目を丸くする。
「さつまいもの、ですか?」
「そうだ!昔、母上がよく作ってくれたんだ。君にも今度ご馳走しよう!」
そう言ってニコッと笑う煉獄さんに、安堵とともにジワリと熱が広がるのを感じる。
少しだけ染まった頬を自覚しながらも、煉獄さんに笑顔を向けて「ありがとうございます」と言葉を返した。
頬を撫でていくヒヤリとした風が気持ち良い。
あれほど冷たい空気が苦手だったはずなのに、どうしてか今は全身に熱が巡っていて、指先までポカポカと温かい。
どうしてだろう、不思議だな。
まるで湯船に肩まで浸かっているかのような心地良さに身体中満たされて、心なしか足取りまで軽くなっている気がする。
その理由を私が知るのは、もう少し先のこと。