yumekago

つめたい指先

おやつというには少し遅く、夜ご飯というには早すぎる時刻だけれど。

「今からですか?」
「ああ!ちょうど腹も減ったし、せっかくの頂き物だ!新鮮なうちに食べたい!」

日持ちのするさつまいもに鮮度なんてあるのだろうかなんてツッコミが一瞬頭を過ぎるけれど、瞳を輝かせる煉獄さんを前にしては、そんなこと言うだけ野暮だろう。

もっと言えば、家に帰ればまだ大量のさつまいもが私を待っていて、お裾分けをしたのも自分の消費量を少しでも減らすためだったのだけれど。

「⋯はい!」

嬉しそうな煉獄さんを見ていたらそんな雑念も無粋に思えてきて、つられるように笑顔を浮かべて頷き返した。

「落葉も始まった頃だしな!落ち葉を集めて焼きいもにしよう!」
「それなら私が集めてきます。煉獄さんは先に着替えてきてください」
「いいのか?」
「柱に風邪を引かせでもしたら私が怒られますから」

誂うようにそう言えば、煉獄さんはパチパチと数回目を瞬かせてからクシャっと相好を崩して頬を掻いた。

ほんの少し眉を下げて笑うこの顔は、稽古をつけてもらうようになってから知ったものだ。
普段見れないこの笑い方を見れることが、ほんの少し嬉しいのは私だけの秘密。

煉獄さんが行水と着替えを済ませている間に、箒で庭に舞う落ち葉を集めていく。

掃除させてしまうことを煉獄さんは謝っていたけれど、継子でもないのに善意で稽古をつけてもらっているのだからこれくらいのことはして当然だと思う。
むしろ日頃の恩返しができるなら運良く降ってきた好機にすら思えてくる。

自宅を掃除するよりも念入りに庭を掃いて落ち葉を一箇所にまとめたところで、煉獄さんが炭を持ってやってくる。

手頃な大きさの石を並べて簡易に台を作ると、そこに炭と落ち葉を放り込んで火をつける。
少し冷たくなってきた空気の中、立ち上った火がジワリと暖かさを運んできた。

思い付きで「ついでに他にも燃やすものがあれば燃やしましょうか」と提案すれば、煉獄さんが書き損じた紙の束や古くなった衣類を持ってくる。

燃料を投下するたびに勢いを増す焚火がなんだか楽しくて、二人でどんどん火に焚べる。
粗方投げ入れたところでようやく一息ついて、縁側に並んで腰を下ろした。

そのまま何を言うでもなく、パチパチと静かに弾ける焚火をぼんやりと眺める。

「⋯焚火の音って落ち着きますよねぇ⋯」
「うむ!俺は火を祷る家系だから特にそう思うな!」
「焚火には独特の周波数があるらしいですよ。心が安らぐゆらぎ、とか何とか」
「そんな効果があるのか?知らなかったな」

感心したように声を漏らした煉獄さんをチラリと一瞥する。
顎に手を当てて真剣な瞳で炎を見つめている煉獄さんの横顔はまるで好奇心旺盛な子どもそのもので、つい笑いが零れる。

「煉獄さんは、焚火よりももっと大きな炎ですもんね」
「うん?」
「煉獄さんの炎はこんな控えめな音しませんし」
「それは褒めているのか?」
「ふふっ、どうでしょう」

煉獄さんの炎は、どこまでも真っ直ぐに情熱と正義を貫いていく炎。
ゆらぎなんて全然ないし、きっと焚火の炎とは全然違うものなんだろうけれど。

「でも、安心するのは同じですね」

暗闇の中にあの炎を見た人はきっと、すごく安堵するんだと思う。
未来へ続く道を暖かく眩く照らしてくれる煉獄さんの炎はきっと、太陽の灯りのような炎なんだと思う。