つめたい指先
煉獄さんの視線がこちらを向いていることは気付いていたけれど、なんだかすごく素直な気持ちを告げてしまったことが恥ずかしくて、焚火から視線を逸らすことなく前を向いたまま。
それでもただじっと座っているうちに指先が冷えてきて、思わず片方の手でもう片方の指先を包んで口元でホゥと息を吐いた。
冷え性、特に末端から体温が抜けていく冷え性にこれからの季節は堪える。
そんなことを考えながら手を擦り合わせていたら。
「寒いのか?」
「あ⋯」
煉獄さんに気遣わしげな表情で覗き込まれて、わずかに身動ぎながら苦笑を浮かべる。
「冷え性なんです。特に指先とか爪先が冷えやすくて」
「そうなのか?どれ」
「え」
こちらが身体を引くよりも早く煉獄さんが私の手を取って、煉獄さんの指が私の指先に触れる。
思わず身体が強張ったのは、突然触れた煉獄さんの手が思いの外温かかったからじゃなくて。
優しく撫でるように、冷えた指先を何度もなぞる煉獄さんの指の繊細で甘美なその仕草が、普段の溌剌とした煉獄さんからあまりにもかけ離れていたから。
「っ⋯」
思わず手を引きかけたが、煉獄さんに優しい力で包まれている手は簡単には抜けなくて。
「あぁ本当だ、冷えているな。これじゃ冬場は刀を握るのも大変だろう」
煉獄さんは視線を私の手に落としたまま、他意も害意もない純粋な心配を滲ませた感想を述べているが、正直私はそれに応える余裕すらない。
それどころか、唐突なその行為に頬が熱を持ち始めている。
ただでさえそんな状態だったというのに。
「こうすると少しは温かいか?」
「っ」
冷えた指先のみならず、手全体を煉獄さんの両の掌で包まれる。
自分の指とは違う、骨ばった太く逞しい男性の手の力強さをまざまざと実感してしまって、頬の熱と動悸が加速する。
男性の手を握ったこともないのに。
目の前には視線を落とした煉獄さんの柔らかい笑顔があって、否応なしに、自分の掌を包んでいる相手が煉獄さんなのだと自覚させてくる。
心臓が激しく鼓動して気持ちが追いつかないこちらの心情などまるで気が付かない様子で、続けざまに煉獄さんは握り締めた手を自身の頬に添える。
指とは違う滑らかで柔らかい頬の感触に、意図せず指が震えた。
「みょうじ?どうー⋯」
わずかに震えた指先か、あるいは何も言わない私か、いずれにしても少しの違和感を感じて不審に思ったのだろう、不意に煉獄さんが目線を上げた。
言葉も発せず、恥ずかしさで唇を噛んで顔を真っ赤に染めている私は、どんなに間の抜けた顔をしているんだろう。
慣れない触れ合いに対する戸惑いや羞恥、こういう状況にうまく対処できない不甲斐ない自分への無力感で少しだけ視界が滲む。
「ー⋯」
視線が交錯した煉獄さんが驚いたように目を見張って、刹那言葉が途切れる。
パチパチと焚火が燃える音だけがあたりを包んで、時折冷気を帯びた風が私と煉獄さんの間を通り抜けていったけれど、その冷たさにすら意識が回らなかった。