つめたい指先
「ーあ、⋯っ、すまない!」
先に動いたのは煉獄さんだった。
私の手を包み込んでいた掌をパッと離して、両手をこちらに向けて開いた状態で強張った顔をした煉獄さんに頭を下げられる。
「軽率だった!申し訳ない!」
「あ⋯、いえ⋯」
柱でもある煉獄さんに、床に着くんじゃないかと思うほど深々と頭を下げられてしまっては、慌てるのはこちらの方だ。
戸惑いも恥ずかしさも全部吹き飛んでしまって、とにかく頭を上げてもらうことに必死だった。
頑として頭を下げ続ける煉獄さんに何度も声をかければ、ようやく深く沈んでいた頭がゆっくりと持ち上げられる。
眉を下げながら気恥ずかしそうに控えめに微笑んで、煉獄さんが頬を掻く。
「⋯生家にいた頃、よく弟にしていたんだ」
そうか、そういえば煉獄さんにはまだ小さな弟君がいるんだった。
当たり前のように自然とこういうことができてしまえるなんて、きっと煉獄さんは良いお兄さんなんだろう。
弟君に『良い兄上』として接している煉獄さんの姿が違和感なく頭に浮かんで、ついフフッと笑い出してしまった。
突然笑みを溢した私に首を捻りながらも、煉獄さんは慎重に言葉を続ける。
「不快だったろう。本当に申し訳ないことをした」
「えっ⋯、あ、いえ!不快だなんて全然思ってません」
「本当か?」
「少し驚いてしまっただけですから」
そう言って笑顔を見せれば、煉獄さんは少し疑いながらも「そうか⋯」と安堵したように緊張で強張っていた肩から力を抜いた。
気を遣ったわけではなく、それは本音だ。
初めて見る煉獄さんの一面に驚いて、不慣れな状況に戸惑ってしまったけれど、それは決して不快感や嫌悪感といった類のものではなかった。
それに、なによりも。
「寒いのも、どこかへ行ってしまいました」
そう言って、赤くなった頬を誤魔化すようににへらと笑う。
身体に吹き付ける少し冷えた風も悴んだ指先も、気が付けば全く寒さなんて感じなくて。
それどころか全身がカッカと熱を発しているかのように温かくて。
まるで煉獄さんの炎が私の中で燃えているかのよう。
今は逆に、まだ少しだけ熱い頬を冷ましたいくらいだ。
「そろそろ、おいも焼けたでしょうか?」
熱の引かない頬を隠したくて、逃げるように縁側から立ち上がって焚火を覗き込む。
いまだ熱を持って染まっているであろう耳にも気付かれませんようにと、耳にかけた髪の毛を下ろしながら。