つめたい指先
いい頃合いに焼き上がった焼きいもを縁側で並んで食べて、お茶を啜ったところでようやく一息つく。
「美味しかったですね」
「ああ、やはりさつまいもは美味いな!」
満足気に笑う煉獄さんを見ていると、こちらまで笑顔になる。
本当に気持ちが良くなるほどの食べっぷりを見せてくれるからこそ、何かを貰うたびにお裾分けをしたくなるというものだ。
焚火はすっかり火が消えて、煤になった燃えカスだけがまだ燻っている状態だった。
火は消えたというのに、それでもなぜか身体の芯がポカポカと温かくて、自分のことながら不思議な気持ちになる。
燃えカスを集めて片付けたところで立ち上がる。
「長居しちゃってすみませんでした。そろそろ帰りますね」
一緒に片付けを手伝ってくれた煉獄さんにそう頭を下げれば、煉獄さんは少し考え込むように顎に手を当てて押し黙る。
それに首を傾げるも、煉獄さんの考えなどわかるはずもない。
帰り支度をして縁側に置いてあった荷物を手に持ったところで、不意に煉獄さんが口を開いた。
「家まで送ろう」
「え」
そう言うが早いか、煉獄さんは羽織を肩から掛けると刀を脇に差して立ち上がる。
これまでにも稽古に熱中するあまり帰宅が遅くなってしまったことはあったけれど、自宅まで送ると言われたことはなかった。
階級は違えど鬼殺隊員だし、自分の身を守る術は持っているのだから。
「私は一人でも⋯」
「見回りついでだ。君が嫌なら無理にとは言わないが」
「いえ!嫌だなんてとんでもないです」
屈託のない笑顔を向けられてはそれ以上食い下がることは憚られて、大人しく頷いた。
それ以上に、心のどこかでその申し出を嬉しいと思っている自分もいたから。
煉獄さんに触れられてから、心がずっとザワザワしていて少し落ち着かなかった。
でも、それでも、もう少しだけ一緒に居たいなんて思っている自分がいるなんて、そんなこと口が裂けても言えないけれど。
人通りの少ない通りを二人で言葉もなく歩きながら、会話の糸口を求めて夜空を見上げる。
この季節特有のひんやりとした澄んだ空気の中で一際輝くのは、綺麗な円を描く満月。
少し目を凝らせばその表面に浮かぶ模様まで見えそうなほどに大きい。
「さっき食べた焼きいもみたいですね」
「うん?」
何の気なしにそう言えば、隣を歩く煉獄さんがいつもの笑顔でこちらを向く。
目配せするように一瞬煉獄さんと視線を合わせてから、「満月のことです」と夜空に輝く満月を目で指し示す。
「半分に切った焼きいもとよく似てます」
「なるほど!言われてみれば確かに似ているな」
「⋯美味しそうって思いました?」
「そうだな、あれほどの大きさなら食い出がある!」
隣をチラッと見上げれば、腕を組みながらそう胸を張った煉獄さんがいて、率直な感想と自信に満ちたその表情がなんだか可笑しくてつい笑ってしまった。
「みょうじ?」
吹き出した私の顔を見下ろす煉獄さんに気付いて、慌てて顔を上げて軽く咳払いをする。