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虹色のナラタージュ 第1章

「⋯んぁ⋯」

カーテン越しに差し込む陽の光に薄っすらと目を開ける。
見慣れた天井が視界に入って、覚醒しない頭を抱えて身体を起こした。

またあの夢だ。

昔からもう何度も見る、やけにリアルで鮮明な夢だ。
その夢を見て目覚めると決まって胸が苦しくて、ひどい時には涙さえ溢れていて、やるせない想いが込み上げてくる。

夢に出てくる人も名前も景色も、起きてしまえば靄がかかったみたいに薄くなるくせに、穏やかな声色や優しい笑い方だけが断片的に記憶にこびりついている。

あの夢は俺の前世の記憶なのか。

そんなオカルトじみた可能性が浮上したものの、突拍子もないその考えがあまりにも馬鹿馬鹿しくて鼻で笑った。

大体忍者ってなんだ。
仮に夢の主が自分だとしたら、そんな地味で陰気臭い職業を俺が選ぶわけねぇ。

それでも繰り返し蘇るその夢を、ただの夢だと一蹴できないのはなぜだ。

その夢を見ると言い様のない焦燥感と胸を刺すような甘い痛みに襲われて、輪郭すらはっきりしない誰かに会いたくて堪らなくなる。
それが誰かもわからないというのに。

ガシガシと頭をかいてベッドから立ち上がる。

寝ぼけた頭を覚まそうとシャワーを浴びて、いつものように身支度を整えて家を出る。

燦々と朝陽が降り注ぐ道を歩きながら空を仰ぎ見て、平和だなと改めて思う。

ほとんど思い出せないけれど、あの夢の世界が陰鬱とした残酷な世界だということは理解していた。
何一つパッとしない、モノクロしかない地味な世界。

その世界に、時折色が差す瞬間があった。

何十色もの絵の具を一気にぶちまけたかのように、モノクロの世界が一瞬にしてフルカラーに変わる瞬間が。
空も草木も、目に映る全てが鮮やかに色づいて呼吸を始めるド派手な世界。

あの夢を見るようになってからいつしか、あの世界を描きたいと思うようになった。

自分の手であの世界を再現できたら、胸を突く痛みから解放されるのだろうか。
誰かもわからない人を求める日々から解放されるのだろうか。

忘れようと思っていたくせに、あの夢を見た日はいつもこうだ。

気がつけばありもしない世界へ思いを馳せて、無意識にありもしない記憶を探ろうとしてしまう。

空を仰いだままコントロールできない不可解な意識に盛大にため息をつくと、雑念を振り払うように歩を早めた。

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