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まちがいさがし 第6章

翌日、いつもより早く出勤するとすぐに、教員だけが入れる資料室へ足を運んだ。

普段からほとんど人の出入りのない部屋を開けると、埃っぽい匂いが充満している。
換気もそこそこに、鍵を机に置いて壁沿いに並んでいるラックに近寄る。

歴代の卒業アルバムが並んでいる棚を指でなぞりながら、その一角に収まっている教員名簿を手に取った。

さほど厚みのないその名簿をパラパラと捲れば、いとも容易く求めていたものが見つかった。
久しぶりに目にしたその名前を、そっと指で撫でる。

ただの文字の羅列に過ぎないことはわかっているのに、ざわめく胸が煩い。

二、三度深く息を吸い込んで心を落ち着かせると、胸ポケットからメモを取り出す。
名簿に書かれたものを手早く書き留めると、何事もなかったかのように名簿を元の位置に戻して資料室を後にした。

それから週末までの数日間は、正直気が気ではなかった。

授業中は気もそぞろで、普段であればチョークやボールペンや教科書が飛んでくる俺の授業で何も飛ばなかったと生徒が不審がっていたらしい。
生徒以上に、自分が授業に集中できていなかった。

そんな俺の様子を見て調子に乗った男子生徒の何人かが「覚悟ォ!」と数学の準備室に乗り込んできたのを返り討ちにしたくらいで、数日は何もなく過ぎていった。

週末をこれほどまで待ち望んだことはなかった。
前日は飲みの誘いも断って定時で仕事を切り上げると早々と帰宅した。

翌朝は平日よりも早く目が覚めた。
アラームが鳴る前に起きて、手早く身支度を整える俺を玄弥たちが不思議そうな顔で見てくる。

「兄ちゃんどこか出かけるの?」
「まぁな」
「どこー?私も行きたいー」
「今日は無理だ」

弟たちには、遊園地や動物園に遊びに行くようにでも見えているのだろう。
だけど生憎、子どもが喜ぶような場所じゃない。

行きたい行きたいと足元に纏わりついてくる就也達を払い除けながら家を出た。