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まちがいさがし 第2章

高校1年の秋に親父が死んだ。
ゴロツキと喧嘩した挙句に刺されて殺されるという、クソみたいな人間に相応しい死に様だった。

涙は出ない。
それどころか、やっと死んでくれたと嬉しささえ込み上げる。

悼む気持ちなんてさらさらなかったが忌引きをもらったので、身内だけで形だけの葬儀を済ませた。

午後には全て片付いてしまい、することもなく一人で家を出た。

いつ帰って来るかわからない親父に怯える弟や妹たちを放って置けず、バイトや学校がないときは基本的に家にいる生活だったから、こうして宛てもなく出歩くのは新鮮な気持ちがする。

何をするでもなくフラフラと歩いて、日が沈み始めた頃にようやく帰路についた。
何にも脅かされない生活は心地いい。

家の近くの公園のベンチで横になって、残暑の残る風を感じていたときだった。

「不死川くん?」

不意に名前を呼ばれて身体を起こすと、駆け寄ってくるなまえが見えた。

「先生」
「お父さんが亡くなったって聞いて⋯」
「はい。今日葬儀も終えたんで、明日から登校します」
「そっか⋯」

ベンチの端に寄ると、空いた方へなまえが腰を下ろす。

「不死川くんの家に行くところだったの」
「俺ん家に?」
「一応先生だから、お線香だけでもと思って」
「そんなことしてもらえるような人間じゃないんで、別にいいですよ」

笑いながら吐き捨てるようにそう言えば、なまえは少し寂しそうな顔をして微笑む。

「親御さんが亡くなったんだし、そういうわけにはいかないよ」
「⋯自分を殴った奴に手を合わせる必要ないですよ」
「そんなこともあったねぇ」
「あん時の怪我、治りました?」
「あ、うん。それは大丈夫」

少しの沈黙の後。

「⋯不死川くんは大丈夫?」
「死んでくれて清々してます」
「そう⋯じゃなくて⋯」
「?」
「お父さんの代わりに、って無理しないかなって」
「え⋯」
「お兄ちゃんだからって、一人で頑張らないでね」

思いも寄らなかった言葉に目を丸くしていたら、なまえが柔らかい眼差しで俺を見て苦笑を漏らした。

「ごめん、余計なお世話だね」
「いや」

取り繕うように笑って立ち上がろうとしたなまえの手を握って引き止める。

「少しだけ、こうしてていいですか」
「え⋯」

一回りは小さいなまえの手を握って、ベンチに背中を預ける。

繋いだ手から、ジワリと身体に熱が広がる。

「⋯うん」

なまえが小さく頷いて、ベンチに座り直す。

何を言うでもなく、手を繋いで並んで座るだけ。
平穏で退屈なこんな時間ですら、隣にいるのがなまえだと思うと愛しく思えてくる。

「⋯ありがとうございます」
「⋯うん」

自嘲を交えた顔で情けなく笑いながらそう言った俺に、なまえは柔らかく微笑んだ。