まちがいさがし 第2章
その日から時々、なまえが俺の家に来たり、俺がなまえの家に行ったりするようになった。
教師の家に生徒が通うなんて褒められたもんじゃないし、バレたらお咎めを食らうことはわかっていたが、なまえと親父を鉢合わせるのは避けたかった。
そう自分に言い聞かせていたが、本当はなまえのプライベートな空間を生徒で俺だけが知っていることに優越感を感じていたからだと、今なら思う。
「いらっしゃい」
「なまえ先生こんにちは!」
「こんにちは」
それでも、近所の誤解を避けるためになまえの家に行くときは兄弟を連れて行くようにしていた。
家での一件以来弟も妹もなまえにすっかり懐いてしまい、一人でなまえの家に行こうものなら泣かれて喚かれるのもあるが。
「今日は何作るの?」
「そうねぇ⋯寿美ちゃんは何食べたい?」
「んー⋯エビフライ!」
エプロンをつけて手慣れた様子で調理器具を揃えるなまえを見ていると、それだけで心が満たされる。
ずっと見ていたくなる。
誰かを好きになるのはこれが初めてなわけじゃない。
それなりに恋愛もしたし人並みに経験もしてきたが、こんな心臓を掻き毟りたくなるような感情に襲われるのは初めてだ。
ただ一緒にいたい、笑う顔を見たい、声が聞きたい、もどかしくなるような子どもじみた欲求ばかりが溢れてくる。
なまえの姿を捉えるだけで身体の奥で熱が疼いて、笑顔を見るたびに心臓が鷲掴みされたみたいに苦しくて、声を聞くたびに脳が支配される。
日々大きくなる想いは、いつまで隠し通せるのだろう。
「不死川くん?」
「あ⋯」
「大丈夫?具合悪い?」
料理から意識が逸れていた俺を心配したのか、なまえが眉を寄せながら首を傾げている。
「いえ、大丈夫です」
「そう?無理しないでね」
「はい、すみません」
そう言って頭を上げると、なまえの頬に白い粉がついているのに気付く。
「小麦粉」
「え?」
ほとんど無意識になまえの頬に手を伸ばした。
「っ」
指が頬に触れる。
柔らかいな。
ほんのりと色づいた温かい頬に指を滑らせる。
「っ⋯ぁ⋯」
考えるよりも早く動いた手がなまえの髪を梳くと、なまえはビクッと肩を震わせて固まる。
「っ、⋯し、不死川くん!」
「っ」
なまえの声にハッと意識を取り戻す。
顔を真っ赤に染めて泣きそうな顔をしているなまえを認識した瞬間、手がパッと離れた。
「あ⋯、す⋯み、ません」
「う、うん⋯」
思わず引っ込めた手は行き場を失って不自然に彷徨う。
髪を押さえながら狼狽えるなまえに、また性懲りも無く胸が鳴る。
無視できない感情と衝動は、もうどうしたって抗えるものではなくて。
俺はこの人が好きなんだ。
そう自覚してから、何度なまえを抱き寄せそうになる自分を抑えただろうか。
それでもまだ、学校や家であれば他人の目があったから、どうにか踏み止まることができていたんだ。