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まちがいさがし 第1章

その日から、なまえは何かと俺に構うようになった。

学校で何度か話しかけられたが、ほとんどぶっきらぼうに一言二言返すだけで、時には聞こえないフリさえしていた。

なまえの纏っている甘ったるい雰囲気が苦手だった。
悪意をぶつけられたことなんてないみたいな平和な顔をして、ぬくぬくと育ってきた人間だけが持つことを許されるような穏やかな空気感が苦手だった。

だから関わらないようにしていたのに。

「ただいま」
「あ、兄ちゃん!おかえり!」
「お客さんだよ!」
「⋯おかえりなさい」

ある日帰宅したら弟や妹達に囲まれて気まずそうに笑っているなまえが居た。

「⋯なんでいるんスか」
「学校じゃ話してもらえないから⋯ごめんなさい」
「せんせー遊ぼうよー」
「兄ちゃんお腹空いたー」

俺となまえの間に漂う微妙な空気感など察することのできない無垢な弟や妹は呑気な顔をしている。

「ちょっと待ってろォ」
「わーい」

とりあえず腹が減ったと口を開けている兄弟に何か食べる物を作ろうと台所へ行く。

冷蔵庫を漁って適当に腹を満たせそうなものを作っていたら、なまえが遠慮がちに顔を覗かせた。

「⋯何か手伝おうか?」
「いえ」

なまえの方を見ることもなく申し出をピシャリと拒んで手を動かす。

「⋯そこ居られるの邪魔なんで、向こう行っててください」

冷たく突き放すように言えば、なまえはおずおずと顔を引っ込めて弟達のいる部屋へ消えて行った。

その時だった。

ーバンッ!

玄関の方から大きな音がしたと思ったら「帰ったぞォ!」という親父の荒々しい声が聞こえてきた。
ドシドシと床を踏み鳴らしながら家に入ってきた親父は真っ直ぐに居間へ向かう。

居間に入ってすぐに、弟達に囲まれているなまえに気付いた親父は睨みをきかせて問い質す。

「なんだテメェは?」
「っ⋯不死川くん、⋯実弥くんのクラスの、副担任です⋯」

倍以上体格が違う男に見下されて、なまえは蛇に睨まれた蛙の如く怯えた顔をしている。

「家庭訪問ってやつかァ?それなら必要ねぇなァ。うちはご覧の通り仲良し家族なんでねェ」

そう言って親父が就也の頭を掴む。

「なぁ⋯、お前もそう思うだろォ?」
「ひっ⋯」

まずい。

頭を掴まれて青ざめる就也を見て台所から飛び出した。

「やめろ!」
「あァ?なんだ実弥テメェ⋯親に逆らうのか?」

ピキピキとこめかみに青筋を浮かべる親父が拳を握りしめるのが見えた。

またか。
予想のつく痛みに備えて受け身の体勢をとる。

就也を放り投げようとした親父から就也を奪い取って、後ろ手で背後に押し込んだ。

視界の端で親父が拳を振り上げたのを捉えて、反射的に目を瞑った。

ーガッ!

が、痛みはない。

それどころか、柔らかい何かに包まれている感触さえする。

「⋯?」

慣れない感覚に目を開けると、なまえの服が見えた。