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まちがいさがし 第1章

ーガシャーン!

「うわぁぁぁん!」
「やめて、父ちゃん!」
「うるせぇな!殺すぞ!」

俺の親父はろくでもない男で、事あるごとに理不尽な理由で家族に暴力を奮るのが日常茶飯事だった。

「やめろ!」
「兄ちゃん!」

親父が暴れる度に、長男の俺は泣き叫ぶ弟や妹の前に立って親父の拳を受ける。

それを言い訳にするつもりはないが、そんな生活を何年も続けていれば他人の些細な行動が全て敵意に見えるようにもなる。

俺が守りたいのは親父以外の家族だけで、家族に害をなす奴らは片っ端らから排除していたし、生傷が絶えない上に目つきも悪かった所為か、街を歩けば暴れたい奴らにしょっちゅう的にされた。

その日もそうだった。

ードンッ

バイトが終わり家路を急いでいた時に、曲がり角から不意に現れた人影を避けきれずに肩がぶつかった。

そんなことは歩いていればたまにあることで、その時も気にせず通り過ぎようとしたが、肩を掴まれた。

「⋯何か用か?」
「なんだその目は?気に入らねぇなァ」
「あァ?」

暴れたいだけの奴らがつけてくる因縁なんて言い掛かりであることしかなかったが、無視を決め込んで一方的に殴られるのも癪だ。
となれば取るべき対応は一つしかない。

ーガッ!

そう判断するが早いか、迷わず繰り出した拳は相手の頬に当たり、まともに受け身もとれずに勢いよく吹っ飛んだ。

「テメェ!」
「やっちまえ!」

一人がやられたことで火がついたのか、連中が一斉に臨戦態勢に入り、ほとんど無意識に身体が動いた。

気が付いた時には通行人が呼んだらしい警察官が俺を羽交い締めにしていて、目の前にはほとんど虫の息になった奴らが転がっていた。

「君、未成年だよね?保護者は?」
「⋯⋯⋯」

そのまま警察署へ連れて行かれ、恰幅のいい中年の警官がアレコレ聞いてくるが答える気もない。

何を聞かれても返事をするどころか眉一つ動かさず、警官を正面から睨み続けた。

そのうちに俺から聞き出すことを諦めたのか、警官がフゥと息をついて俺をチラリと見る。

「その制服、キメツ学園の生徒だよね?」
「⋯⋯⋯」

下から睨みあげるように警官を見た俺を無視して、中年警官は部屋の片隅にいた部下らしい若い警官に耳打ちをして部下が部屋を出て行くのを見送った。
学校に連絡でもする気かと思い至るが、家に連絡されなければ何でもいい。

「何でも暴力で解決しようとしちゃいけないよ」

再び俺に向き直った警官が緩い口調で続ける。

「人間なんだからさ、暴力に頼る前に他の方法も考えられるでしょ」

うるせぇ。だったらそれを親父に言ってきかせろよ。
テメェがそれであいつを真人間にできたら、俺も言うこと聞いてやるよ。

綺麗事を並び立てる警官に苛々していたら、急にドアの外からパタパタと足音が聞こえて、さっき出て行った部下に連れられて一人の女が入ってきた。

「不死川くん⋯」

走ってきたのか、息を切らして髪を乱れさせながらそう俺の名前を呟いたのは副担任であるなまえだった。