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まちがいさがし 第1章

「お世話になりました」
「それじゃ頼みますよ」
「はい。失礼いたします」

警察署のロビーで見送りの警官達に頭を下げるなまえをどこか他人事のような気持ちで眺めていた。

「行こっか」

警官の姿が見えなくなったことを確認して頭を上げて、なまえは事も無げな顔でそう言った。

言葉を交わすでもなく夜道を並んで歩きながら、不意になまえが口を開く。

「お腹空いてない?」

突然投げかけられた問いに、返事に詰まっていたらなまえは少し微笑んで言葉を続けた。

「ご飯食べよう」

そう言って少し歩いた先にあったファミレスに入っていった。

「何でも好きなもの頼んでね」

「ファミレスだけど⋯」と苦笑を漏らすなまえと向かい合って座ると、メニューを渡される。

店員に注文を告げてメニューを片付けると、dream id=1]を正面から見据えた。

「⋯なんでセンセが来たんスか」
「私の方が家が近かったから」
「へぇ⋯」

そう言って窓の外に視線を移したなまえはそれ以上何を聞くでもなく、ただ静かにそこに座って居た。

会話するでもなくボンヤリと外を眺めていたら、店員が料理を運んでくる。

「以上でお揃いでしょうか?」
「はい」
「ごゆっくりどうぞ」

一礼して去っていく店員に小さくお辞儀するなまえを横目で見ながら、箸に手を伸ばす。

「センセは食わないんスか?」

運ばれてきた料理に手をつけたところで、なまえがコーヒー以外頼んでいなかったことに気付いた。

「うん、ちょうど夜ご飯食べたところで」

まぁこんな時間だし当然か。

「あ、見られてると食べにくい?」
「⋯別に」

無愛想に返した言葉でも、なまえはニコニコとしていて、なんだか居心地が悪い。

「っつ」

居心地の悪さをかき消すように食べることに集中していたら、殴り合いのときに切れたのか口内に痛みが走った。

「大丈夫?」
「平気です」
「帰る前に手当しよっか」
「必要ないです」
「でも⋯」

心配そうに眉を寄せるなまえを、手を止めてじっと見た。

「殴られるの慣れてるんで」

どうせ家に帰れば親父の暴力が待っているし、手当なんてするだけ無駄だ。

そう思って言ったのに、なぜか目の前のその人は酷く傷ついたような顔をして、か細い声で絞り出すように言った。

「そんなことに、慣れないで⋯」

なんであんたが泣きそうな顔してるんだ。

慣れたくて慣れたわけじゃない。
慣れるしかなかっただけだ。

「痛みに慣れちゃダメだよ」
「⋯じゃあ、痛いって言ったら誰か助けてくれるんスか」

当たり障りない言葉でのらりくらり躱すこともできた筈なのに、なぜか自分でも戸惑うほど怒気を帯びた本音が漏れた。

「俺が慣れるしかねぇんだよ」
「⋯⋯でも、」
「何も知らねぇくせに余計な口出しすんじゃねェ」

駄目だ。

これ以上話してたら言いたくないことまで洗い浚いぶちまけてしまいそうで。

「っ⋯」
「不死川くん!」

食事もそこそこに店から逃げるように飛び出した。