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背中合わせの恋煩い 第5章

煉獄さんの見舞いから帰宅してから、私はただただ自分の使命に没頭した。

一匹でも多く鬼を狩りたかった。
この世から鬼を消し去りたかった。

もう誰も、鬼を狩らなくてもいいように。

そのためなら、自分の身体がどうなろうと構わなかった。

自分の担当地区を越えて、鬼の影を追って四方まで足を延ばした。
誰かに指令が届く前に出向き、片っ端から鬼を狩った。

朝方に一度、煉獄さんへの届け物を用意するために家に戻る。
倒れるように一刻ほど眠って、隠の人に荷を預けて家事を片付けたら再び家を出る。

刀は休む間もなく鬼の血を受け、赤黒く変色していた。
足袋の底は擦り減って泥に塗れ、隊服と羽織は鬼の血か自分の血かわからないほど赤黒く染まっていた。

風呂に入る度に身体に新しい傷が増えている事に気付いていたけれど、治療もせず真新しい傷を何の感情もなく眺めていた。

顔に斬撃を受けても、腹に打撃を受けても、どうでも良かった。
このまま死んでも良かった。

むしろ、このまま死んでしまいたかった。

そうしたら、煉獄さんはきっと開放される。

病室で眠る煉獄さんを見て痛感した。

今この人が逝ってしまったら。
愛する人を娶ることも、子を持つ事もないまま逝ってしまったら。

彼が生きていた証は彼の記憶を持つ人々の中でしか残らない。

それもいつかは消えてしまう。

優れた才も人格も何一つ継がれないまま、最初からなかったかのように。

そうさせているのは紛れもなく、私だった。

自分の存在が彼の足枷になっている事は言い逃れできない罪であるとわかっていたのに、その優しさに付け込んで独り善がりな幸せを享受していた。

煉獄さんは優しい。
だからきっと、自分から私を切り捨てる事なんて出来ない。

それなら、私が自分で自分を切り捨てるしかない。

それが、私に残された唯一の贖罪だった。
仮初の妻として煉獄さんにしてあげられる、最後の務めだった。

今日もまた、鬼を狩り終えた重い足を引きずりながら殆ど無意識に家に辿り着き自室へ向かう。
布団を敷くのも億劫で、倒れるように畳に崩れ落ちた。

夢の中で煉獄さんに会った。

ぼんやりと霞がかった視界の中で、燃えるような杏色の髪の毛だけがやけに鮮明で、見覚えのあるその色に煉獄さんがそこにいるのだと思った。

なまえ

そう名前を呼ばれた気がした。

煉獄さん、ごめんなさい。

優しさに付け込んで、貴方を縛り付けて、負わなくていい責を負わせて、人並みの幸せすらも奪ってしまった。

ごめんなさい。
もう自由になってほしい。

とっくに枯れたと思っていた涙が一筋、零れ落ちた。