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まちがいさがし 第5章

なまえ!」

アパートの階段を駆け上って、ノックもせずにそのドアを開いた。

けれど。

『実弥くん、いらっしゃい』

そう言っていつも温かく迎えてくれた人はもうそこには居なくて。

求めていた優しい笑顔はもうそこにはなくて。

「な、んで⋯」

家具もカーテンも何もない、がらんとした空間だけが広がっていた。

まだ少し漂っているなまえの残り香に、この部屋は間違いなくなまえが暮らしていた部屋で、なまえはもう居ないんだということを実感させられて、膝から崩れ落ちた。

「なんでだよっ⋯」

綺麗に磨かれた床にポタッと涙が落ちてじんわり広がっていく。

駄々をこねる子どもみたいに「なんで」を繰り返しても、困ったように笑いながら慰めてくれた優しい笑顔も温かい手も戻ってくることはなくて。

後悔と寂寞と思慕がぐちゃぐちゃに入り混じって頭を駆け巡って、どうしようもない喪失感だけが残ってそこから動けなかった。

好きなんだ。

本当に。

包容力も経済力も何もないただのガキだけど、自分の想いや欲をぶつけるばかりで何もしてあげられなかったけど、それでも心底好きだったんだ。

他の女なんていらない。
俺はもう一生、なまえだけで良かったんだ。

なのに。

それなのに。

どこで間違えた?

何を間違えた?

行き場のない想いが呻き声になって溢れてくる。
何もない空間に一人、子どもみたいに蹲って、次から次へと溢れてくる涙を拭うこともできずにいた。

なまえがいないなら、生きている意味なんてねェ。

なまえを失うくらいなら、死んだほうがマシだ。

どれだけ求めても、なまえはもういない。

その事実を受け入れたくなくて、ここで待っていたら戻ってくるんじゃなんて有りもしない可能性に縋って、秋晴れの日差しが届くその部屋から出たくなかった。

空っぽの部屋で吐きそうなほど泣いて、フラフラになりながらなまえの部屋を出たらもう辺りは暗くなっていた。

涙は枯れ果てて、鉛のような身体を引きずって覚束ない足でどうにか帰宅した。

「不死川!」
「煉獄⋯なんで居んだよ」

力なく玄関を開いて居間を通り抜けようとしたら、弟妹たちと遊んでいた見知った顔がこちらを向いた。

「鞄も持たずに飛び出しただろう?届けに来たんだ!」
「そうかよ⋯」
「⋯大丈夫か?ひどく具合が悪そうだが」
「気分は最悪だ」

色恋に対する感度が著しく鈍い煉獄で良かった。

俺がなぜ教室を飛び出したか、今こんな酷い顔をしているのか、煉獄にはさっぱり思い至らないようでただ首を傾げていた。