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まちがいさがし 第5章

それからの日々は抜け殻のようだった。

受験生に似つかわしくないそこそこの勉強量で第一志望の大学に受かり、目標もやりたいこともわからないままなんとなく教職を取った。

誘われれば生返事でコンパに行き、言い寄ってきた女を一晩だけ相手する。

前戯も愛撫もろくにせず、ただ穴に挿れるだけ。

相手の顔なんか全然覚えていないし、言葉や視線を交わすことすらない。
突かれて喘ぐ女を、他人事のように無感情な目で見下ろしていた。

何も感じない。

雑に扱った人間から叩かれて罵られ責め立てられても、悪いとすら思わなかった。

その他大勢に過ぎない人間に何を言われようが、何と思われようが、どうでも良かった。

くだらない学生生活を過ごして、煉獄や宇髄に誘われるまま母校に就職した。

久しぶりに訪れた母校はあの頃から何一つ変わっていなくて。

一度だけなまえが学校で身体を許してくれた準備室の前を通りかかったとき、急激に当時の感情が蘇ってきた。

学校内ですることをあれだけ嫌がっていたのに、子どもみたいに駄々をこねてなまえの優しさに付け込んで強引に身体を開かせた。

それでもなまえは笑顔を崩すことなく俺を受け入れてくれたから、甘えてたんだ。

教師の立場になって生徒を見れば、生徒がいかに世間知らずで浅はかで楽観的で刹那的なのかがよくわかる。

当時の俺もそうだったんだろう。

なまえから見れば俺は世間一般の子どもと変わらないただのガキで、なまえにしてみれば年の近い弟くらいの存在でしかなかったんだろう。

俺がいくら恋だの愛だの言ったところで、甲斐性もない責任も取れない無力なガキがただ喚いているだけに過ぎない。

普通に別れを告げたところで俺はきっとそれを受け入れなかっただろうし、身勝手に喚くだけだっただろうから、なまえは何も言わずに去った。

準備室に入り、あの日と変わらない備品を眺める。

あの日、行き場のないドロドロの感情を声を押し殺しながら受け止めたなまえは、何を思っていたんだろう。

理性を失って本能のまま欲をぶつけた俺に、ままならない思考でそれでも手を差し伸べてくれたなまえに、俺は何をするべきだったんだろう。

いつもなまえが座っていた椅子に腰を下ろし、授業の準備や答案の採点をしていた机に触れる。

なまえが俺の前から消えて5年が経っているというのに、忘れるどころかすべて鮮明に覚えている。

酒を浴びるほど飲んだところで、他の女を抱いたところで、記憶が吹き飛ぶことなんて全然ない。

いつだって脳裏にはなまえがいて、柔らかく微笑んでいるんだ。

会いてェ。

なまえが姿を消してから5年も経っているというのに、未だに想いは消えないままだ。

笑顔も声も匂いも、すべてを鮮明に覚えている。

なまえが俺から逃げたんだとしたら、会わない方が正解なんだろう。
なまえを大切に想うなら、なまえの意思を尊重するべきなんだろう。

それでも。

もうなまえじゃなきゃ満たされねェ。

俺はどうしたらいい?

熱くなる目頭を堪える代わりに、机の上に置いた手を固く握り締める。

「あれ?不死川先生何してるんですか?」

開け放したドアから前髪を真ん中で分けた男子生徒がひょっこりと顔を現し、訝しげな視線を送ってくる。

「⋯うるせェ殺すぞ」
「ひっ」

開いた瞳孔で睨み返せば、男子生徒は胸に抱えたプリントをギュッと抱え直して走り去った。

同じ教師として出会っていたら、未来は違ったのだろうか。

そんな仮定の話を想像したところで、高校でなまえに出会っていなければ教職を志すこともなかったのだから、そんなもしも話は存在し得ないと思い至る。

教師になってもわからない。

どうやったらこの気持ちを忘れられるのか。

それだけは今でもわからねェんだ。