路地裏のキンモクセイ 第3章
「お祭り行ってみる?」
「へ?」
木ノ葉の里の収穫祭2日目。
朝食を食べ終えた後、洗濯物を干し終え、カカシの淹れたコーヒーを二人で飲みながら一服していると、カカシがふと思い出したようにそう言った。
「昨日はオレが寝ちゃって出かけられなかったでしょ?だからさ」
「そんな⋯私は家でのんびりするの、好きです。なので気にしな「お祭り嫌い?」
申し訳なさそうな顔で辞退を申し出ようとするなまえの言葉を遮ってカカシは尋ねた。
「──嫌い、じゃないです⋯。でも、せっかくの休日ですし、私のことは気にせずに、自分のことをなさっていただいて⋯」
「なまえは行きたくない?」
「⋯⋯⋯」
肯定も否定もできずに、なまえは困惑の色を浮かべて視線を泳がす。
「オレはなまえの気持ちを聞きたいの」
「私は──⋯」
「そういえば新しくできた茶屋、収穫祭中はカップルで行くと半額になるって広告来てたっけ⋯。
あそこの団子絶品ってアンコが言ってたから興味あったけど⋯ま、一人で行っても高いし、諦めるか⋯」
そう言って少し悲しそうな顔をするカカシ。
「っ⋯い、行きます!行きたいです!」
案の定、寂しそうな表情で肩を落とすカカシの様子に、なまえは焦ったように声を上げた。
こーでも言わないと行きたいなんて言わないんだから、なまえは⋯とカカシは心の中で笑う。
出会って数日しか経っていないけれども、なまえのことは手に取るようにわかる。
本当は昨日、夕飯の材料を買いに出かけた時、半被や浴衣を着て踊る人々や露店を興味深げに眺めていたことや
寝る前に窓を開けて、夜の闇に浮かぶ提灯やかすかに聞こえる太鼓の音に耳を澄ませていたことも知っている。
甘い物なんて本当は好きじゃないけど
なまえを笑顔にするためだったら、いくらでも食べてやる。
いそいそと嬉しそうに出かける支度をするなまえを、目を弓なりにして見守るカカシの姿がそこにあった。