路地裏のキンモクセイ 第3章
「美味しい!」
「そ?それは良かった」
大通りから少し入った路地にできたという新しい茶屋は、半額キャンペーンの効果なのか新装開店という話題性なのか、裏通りにあるにも関わらず多くの人で賑わっていた。
運良く空いたテーブル席に向かい合って座り、運ばれてきた団子を目を輝かせながら頬張るなまえにカカシも笑みが零れる。
自分はというとなまえが団子を頼むなら⋯と、とりあえずアンミツを頼んでみたものの、あまりスプーンが進まない。
「あの、宜しかったらお団子いかがですか?」
絶品団子に興味がある、と言ったカカシの言葉を思い出したのだろう
なまえは自分の団子を丁寧に串から抜き取り、小皿に乗せるとカカシに差し出した。
「ん、ありがとう」
せっかくこうまでして勧められたのだから仕方がない、カカシは団子を箸で摘むと餡子がたっぷりと乗ったソレにかぶりついた。
餡子の甘みと程良い餅の弾力が口いっぱいに広がる。
「どうですか?」
「⋯美味しい」
カカシの言葉に嘘はない。
その団子は確かに絶品という称号に相応しい味のように思えた。
「なまえもアンミツどーぞ?」
代わりに、とほとんど手をつけてないアンミツをなまえに手渡す。
「あ⋯、はい、いただきます」
一瞬強張った顔を見せるなまえに少し違和感を感じたカカシだが、なまえがカカシの勧めに素直に頷くのを見ると気のせいかと頭を振った。
しかし
「すみません、スプーン一ついただけますか?」
近くにいた店員に声をかけ、新しいスプーンで手をつけられていない部分のアンミツを口に運ぶなまえに、カカシの胸が再びざわついた。
壁を作っているわけではない。
人が嫌いなわけでもないと思う。
ただ、なまえは人との接触を意識的に避けているように思う。
でも、とカカシは自分の掌を見つめる。
昨日、そして今日も彼女と繋いだ掌。
透き通る髪の間から覗くなまえの細い肩。
もたれかかった自分を拒否するでもなく受け入れ、支えてくれたその肩。
光を受けて揺れる、艶やかな髪。
自分の言葉に反応して照れる彼女が可愛くて、勢い余ってキスを落としたその髪。
そして酒酒屋で飲んだ日、ゲンマが口をつけたグラスに一切手をつけなかったなまえ。
滑るように視線を走らせ、カカシの思考はとある結論を導き出す。
だがその答えをなまえにぶつけるのはまだ早い気がして
「ごちそうさまでした」
「ん、じゃ行こーかね」
満足そうな顔で微笑むなまえの顔に、同じように頬笑みを返して
辿り着いた答えを自分の心の奥底に押し込んで、カカシはなまえと茶屋を後にした。