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路地裏のキンモクセイ 第2章

「ん⋯」

朝の日射しに刺激され、カカシは布団の中で陽に背を向けるように寝返りをうった。

と、いつもとは違う雰囲気に脳が覚醒する。

「いー匂い⋯」

まだはっきりしない意識でも訓練された忍の感覚は鋭く、キッチンから漂ってくる朝食の匂いに目を細める。

ふと枕元に置かれた時計を見れば、まだ日が昇って2時間程しか経っていない。

いつもの休日であれば、ここぞとばかりに再び夢の世界へ堕ちていくところだけれども

「ま、せっかくご飯もあることだし⋯ね」

一つ欠伸をするとカカシはベッドから起き上がり、匂いに釣られるようにその元へと歩いて行った。

「おはよ」
「カカシさん!おはようございます」

いきなり現れたカカシに驚きながらも笑顔を返すなまえ

「すみません、冷蔵庫のもの勝手に使ってしまって⋯」
「ん、いーよ。というかあんな物しかなくてよく作れたね」

任務続きでしばらく買い出しに行ってなかったことを思い出し、食卓に並ぶ小皿に目をやり感心したようにそう言えば、なまえは大したものではないです、と恥ずかしそうに俯く。

「あの、まだもう少しかかりますので寝てくださっても⋯」

申し訳なさそうな顔でそう言うなまえ

「いい匂いで目が覚めちゃったから」

と笑って言えば、なまえは少し心配そうな表情を残しながらも微笑んでくれた。

顔を洗ってパジャマを着替えてキッチンに戻ったカカシはパタパタと動くなまえを、椅子に座りながら眺める。

小動物のように小回りで動く彼女は見ていて飽きなかった。

と。

「あの⋯」
「ん?」

「あんまり見られると、その⋯、緊張します⋯」

あまりに視線を送りすぎたのか、なまえは包丁を持つ手を休めて、しかし顔は上げずに不満を含ませたような声でそう言った。

「ごめんね、つい可愛くて」

笑ってそう言えば、なまえは顔を上げて目を見開き、その頬をみるみるうちに赤く染め上げていった。

その様子が可笑しくて、ククッと笑いを漏らすと

「かっ、からかわないでください!」

と耳まで真っ赤にして反抗する。

誰かの言葉にいちいち反応して、コロコロと表情を変えて。

それは普通の人間とまるで同じ。

そう、この子はどこにでもいる普通の人間──。

なまえの表情に、仕草に、カカシはそんなことを改めて自分に言い聞かせた。