遥かなる群青 第2章
「お先に失礼します」
「お疲れ様ー」
仕事を終えて職場を出たところで、携帯がピコンとメールを受信したことを告げる。
夕方には少し早い時間帯のせいか画面が見づらくて、日陰になる部分を探して画面を確認すると送り主は彼だった。
『今日友達来てるから』
短くそれだけが書かれたメール。
用件は書かれていなくても、彼が何を言いたいのかはわかる。
友達というのが男性なのか女性なのか疑問を持つまでもないけれど、今夜はその『友達』と過ごすから早く帰ってくるなと言いたいのだろう。
『22時頃に帰ります』
だからそれまでにはすべての痕跡を消しておいて。
祈りにも似た感情を言外に含ませながら、そう返すのが精一杯だった。
メールを返信し終えて、ふぅとため息をつく。
仕事場に戻るわけにもいかないけれど、帰ると伝えた時間まではまだかなりある。
街をフラフラ歩いていたらまた誰かに迷惑をかけるかもしれないし、あまり人の来ない場所で静かに過ごしたい。
そんなことを考えていたら、ふと前の通りを歩くポケモンを連れた女性が目に入った。
女性の後を跳ねるようにしてついていくポケモンの顔を見ていたら、キバナさんの人懐こいフライゴンの姿が重なって、つい懐かしい気持ちになる。
だからだろうか、今まで行ったこともなければ興味を持つことすらなかったワイルドエリアに行ってみようと思ったのは。
街の中心部にある大通りを下っていけば、すぐに行けたはずだ。
一面の広野で野生のポケモンがいるらしいそこなら、きっと街ほど人はいないだろうし時間を潰せるかもしれない。
考えれば考えるほど行ってみたいという欲が湧いてきて、カバンを背負い直すと足取り軽く目的地へと歩を進めた。